キャリアガイダンスVol.434
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の生徒は、「それは自分たちが決めたことじゃない」と、食文化をテーマにした独自の交流を模索していきました。「本当に交流したいなら形だけでなく積極的なコミュニケーションが大切」とも語っていて、心から友好を深めている姿がありました。教育には本来「引き出す」という意味があるわけで、生徒にもっと委ねれば、もっと引き出せるのですよね。―お話しいただいた課題を乗り越えるためにも、教師や学校にはどのような役割が求められるでしょうか?秋田 一つは、生徒にさまざまな知のありようをつなぐインターフェースの役割でしょうか。生徒の質問に早出しで答えることなく、どこに焦点をあて、どういう言葉として戻せば思考が深まるかを考えながら問い返す。オンラインであっても、良質な問いやチャレンジングな課題を出すと生徒は興味をる高校の違いがあるとすれば、案外、先生方の探究への姿勢が影響しているのかもしれません。千葉 同感です。コロナが今後どうなるかなど誰もわかりません。だからこそ探究なんじゃないでしょうか。探究がうまくいっている学校の教師は、生徒と一緒に考えながら、わからないことを素直に、「私、わかりません」と言える勇気があるような気がします。秋田 先程、モヤモヤ感を抱えることも大切という話がありましたが、例えば講演を聞いたとき、「なるほど、いいな」となりやすい人って、納得しているようで、意外と自分の内面と向き合えていないことが多いんです。一方で、示します。それらを他の生徒にシェアすることで、その輪がさらに広がっていくわけで、これからは知識の伝達以上に、探究のタネの共有こそ公教育が担うべきだと思っています。岩本 つなぎ役、伴走役という役割に加え、教師自身が「良き探究者」として、学び続けることが大切だと思います。探究のプロセスにおいては、学ぶことの喜びを感じると同時に、モヤモヤ感も出てくるわけで、そういう気持ちを抱え続けることが大事な気がします。それがあれば、「教えてあげる」という発想に陥ることはないでしょう。コロナ禍でフリーズしてしまう高校と、試行錯誤しながら前を向いてい「えっ、この人の言うことは本当?」「そうかもしれないけれど、こういうことも言えるのでは?」などモヤモヤしたものを抱える人は、自分の内面を一度くぐっているため、課題を自分事化しやすい。それも一つの探究の在り方なわけで、そうした探究者としての姿を生徒に見せることも教師の役割だと、お話を聞いていて感じました。千葉 あとは一人で抱え込まないことですよね。一人で生徒全員を見取れないのは当たり前。担任や学年主任などに責任を押し付けず、皆で生徒のいろいろな姿を把握していく必要があると思います。特に、芸術科目や保健体育、養護の先生には、座学中心の先生には「これから」を語ることよりもずっと大切なこと。それは「今」、目の前の生徒に直に向き合うこと日本イノベーション教育ネットワーク(協力OECD)OECDの協力の下に生まれた産学コンソーシアムで、秋田喜代美さんは研究統括責任者を務める。東日本大震災の復興支援プロジェクトである「OECD東北スクール」を受け継ぎ、その理念を全国に広げるべく2015年に設立。2030年の地域課題解決に向け、海外や地域・企業などと協働をしながらプロジェクト学習、探究学習に取り組む。「生徒国際イノベーションフォーラム」をはじめとする国内外のフォーラムに生徒が主体的に参加。これらの実践を次世代の学びの開発と普及につなげるとともに、地域創生モデルの創出につなげることも目指す。あきた・きよみ●大阪府生まれ。東京大学文学部卒業後、銀行員、専業主婦を経て東京大学教育学部に学士入学。同大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。立教大学文学部助教授を経て、2004年東京大学大学院教育学研究科教授。19年、東京大学初の女性学部長、研究科長に就任。専門は発達心理学、教育心理学、保育学、学校教育学。これからの学びとは、学校とは東京大学大学院教育学研究科長・教育学部長秋田 喜代美362020 OCT. Vol.434

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