キャリアガイダンスVol.434
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432020 OCT. Vol.434視点内容例えば…プロセスに注目結果ではなく、プロセス(過程)に注目して勇気づける。「努力しているね」「がんばっているね」加点主義ダメ出しではなく、今できていることに注目する。「ここがいいね」「これに取り組めたんだ」貢献に注目周囲への協力に注目。共同体感覚にもつながる。「助かったよ。ありがとう」「手伝ってくれて、嬉しいよ」I(アイ)メッセージ主語を「You」ではなく「I」でメッセージを伝えて勇気づける。「課題を提出してくれて(私は)嬉しいよ」「意見を聞けて(私は)楽しみになりました」誌上 進路指導ケーススタディ 自信をなくしている生徒に どう向き合うかコロナ禍により休校、分散登校、夏休み短縮など、通常の高校生活が中断・変化し、「高校生活を続けていける自信がない」などの悩みを抱える生徒も出始めました。仲間とのつながりを実感しづらくなり、自信をなくし始めている生徒との相談に役立つ理論として、「勇気づけ」や「共同体感覚」を説く「アドラー心理学」に注目しました。取材・文/清水由佳 イラスト/おおさわゆうこんなケース1学校を辞めたいと言い始めた1年生2グループワークが苦痛という2年生3受験勉強が進まず、自信喪失の3年生第16回かりまざわ・はやと●1986年岩手大学工学部卒業後、岩手県の公立高校教諭に。早稲田大学大学院教育学研究科後期博士課程単位修得退学。教育学、教育カウンセリング心理学を専門とする。2015年4月より現職。会津大学 文化研究センター教授 苅間澤勇人先生 【監修&アドバイス】心理学を教育分野に広め、発展させてきました。アドラー心理学の教育観は、相互尊敬・相互信頼に基づいており、集団の中での居場所の確保や、大切な存在として認められるといった、人の基本的な欲求に着目しています。 その特徴の一つは、問題の原因を追及するのではなく、「人間の行動には目的がある」と考える目的論です。例えば、問題行動を起こす生徒がいる場合、「どうして(何が原因で)この生徒は問題行動をとっているのか」を探るのではなく、「何のために(何が目的で)この生徒は問題行動をとっているのか」を考えます。教室内で騒ぐのは、周囲から存在を認められたいから。不登校は、心理的安全や身体的安全を求めているからなど、目的は何かを考えようというものです。そして、その目的に気づいてあげられると、求めているものを与えられるというのが、アドラー心理学の目的論です。 また、生徒との関わり方として、「勇気づけ」は有名です。相手の存在を認め、長所や資質などに着目し、その生徒なりの些細な努力や成長に目を向け「勇気づけ」ます。誤解されがちなのが、誉めればいいと思われがちなこと。例えば、授業中の発言に対し、「素晴らしい意見ですね」というのは評価になり、時として「素晴らしい意見じゃないと言えない」という勇気くじきにつながりかねません。それよりも、 アドラー心理学の創始者であるアルフレッド・アドラー(Alfred Adler)はもともと精神科医で、第一次大戦後にウィーンで世界初の児童相談所を設立し、教育分野に力を注ぎました。その後、ルドルフ・ドライカース(Rudolf Dreikurs)などの後継者が、アドラー当たり前のような行動でも、今できていることに注目し、それをきちんと伝えることです(表参照)。 「共同体感覚」も、アドラー心理学では重要な概念です。『今日から始める学級担任のためのアドラー心理学』の著者でもある文教大学教育学部教授・会沢信彦先生は、共同体感覚を、「他者や世界に対する関心」「所属感」「貢献感」「信頼感・安心感」「協力」「相互尊敬」といった意識や態度の総体であると述べ、共同体感覚は精神的健康のバロメーターでもあると言います。だからこそ、生徒の悩みや進路相談のなかで、これらの共同体感覚を高めるような関わりをしていくことも重要になります。 勇気づけにおいても、共同体感覚を高めるような関わりにおいても、大切になるのは、「相手の目で見、相手の耳で聞き、相手の心で感じること」だとアドラーは説きます。ロジャースの「傾聴」にも通じる、相手を尊重し、共感的に話を聴く。進路相談場面でも、重要な姿勢と言えるでしょう。表 「勇気づけ」の視点 進路指導に役立つ理論●アドラー心理学理論を活かす

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