キャリアガイダンスVol.434
48/66

AO・推薦指導についての実績を残してきた神﨑氏による連載も残すところあと2回。今回のテーマは「そもそも小論文を評価する人は誰なのか」「評価者からどういう反論が起こり得るのか」を起点にし、そのうえでの指導方法を紹介します。れば、あるシステムがなぜ駆動するのか、その要素同士の関係(因果関係、相関関係など)を丁寧に記述・説明することが求められます。ということは、研究者はこの眼差しを持って、答案を見ているということになります。 なお、「客観性というものは存在するのか」という問いもありますが、ここでは深く追わず「多くの人が認める」「リアリティがある」「本当らしさがある」という理解の程度に留めておくことにします。 認知科学者のスティーブン・スローマンとフィリップ・ファーンバックは『知ってるつもり 無知の科学』で「直観」と「熟慮」の違いを語っています。私の授業ではそれらに「直感」という語を加え、科学者の眼差しと問いや反論について説明しています。 多くの高校生は「感情」「感覚」で物事をとらえがちで、小論文においても根拠を抜きにして文章を展開する傾向があります。まさに「直『感』」を駆使するのです。しかし、それだけでは研究者から「科学ではない」「なぜそうなるのか?(why)」「要素同士の関係についての説明がないではないか」と反論される可能性があります。 この回避のため、指導として「なぜそうなるのか?(why)」という因果関係を高校生に問いかけがちですが、私は躊躇します。そもそも関係というのは因果関係だけではないし、高校生側は「自分は追い詰められている」と誤解することがあるからです。whyではなく「これはどういうことか?(what)」と問いを変え、状況説明を促すと要素の関係が見えることがあります。 私は、小論文指導の初期段階では状況説明を促し、その中で見出した(生まれた)概念の関係を整理する授業設計をします。連載で紹介したLEGO®や付箋による言語化のワークはその典型例です。 一方、「直観」は前述の書籍によると「単純化された大雑把な、そして必要十分な分析結果を生む」ものであるといいます。類似の事例を過去に経験していると、「(たぶん)こういう関係がある(に違いない)」と類推(アナロジー)によって解を出そうとします。しかし、それでもやはり科学者は「本当にこの関係は成立するのか?」と問いを抱きかねません。 この状態を打開するために、二人は「熟慮」が大切だと述べます。システムの要素の関係を丁寧に追うということです。つまり、研究者の反論を防ぐには、「直観」から「熟慮」に移行すること、システムの中にある要素の関係の説明を行うことが大事だということです。 この段階の小論文指導では、科学者の視点をどう持ち込むかということに焦点を置くことになります。おそらく多くの指導者は第1回の記事で述べた「知識理解思考」を養うために、講義で知識を注入するという判断をするでしょう。 しかしながら、科学者の視点を獲得す これまでの連載では「自分の意見をどう構築するか」という話をしてきました。スポーツでいえばオフェンス(攻撃)を意識したものだといえます。一方で、小論文は他者の目に触れるものである以上、その内容を受けて読者は「問い」を抱き、書き手に投げかけます。時には内容に対して批判的な問いを投げかけることもあります。そうした問いかけを「反論」と呼びます。答案を構成する際には、問いや反論に対するディフェンス(防御)も考えなければなりません。 よく小論文の世界では「反論と反駁(再反論)を考えなさい」という指導がなされます。自論への反論に対する反駁を行うことで、自分の主張の有利性を示すということです。それを表現するために「譲歩構文(「確かに…しかし…むしろ…」等)を用いましょう」という話になります。 しかしながら、譲歩構文を形式的に用いるケースが目立ちます。反論と反駁が機能していない答案、自分が反駁できそうな反論を都合よく取り上げた答案も見られます。 私は「大学受験」小論文や、総合的な探究の時間における研究論文の評価者を大学の「研究者(科学者)」と想定しています。 そもそも科学とはある対象において、客観的な方法で、筋道立てて理論を組み立てることを指します。言い方を変え「研究者(科学者)」が成果物を評価する科学的な思考を導く「直観」と「熟慮」482020 OCT. Vol.434

元のページ  ../index.html#48

このブックを見る