キャリアガイダンスVol.434
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神﨑史彦1978年生まれ。1996年に法政大学に法学部論文特別入試で合格。在学中より塾講師を務め、卒業後は大学受験予備校などで小論文の講義を担当する一方、模擬試験の問題作成者として活動。20冊の学習参考書を出版。現在は自らの塾を経営しながら、講演や私立学校での講師を務め、全国各地の高校教育改革ならびに高大接続事業のコンサルティングを行っている。2020年4月よりスタディサプリ講師に就任。社会人大学院生(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科)。21世紀型教育機構アクレディテーションメンバー。● 学習指導例(講座3回目、対象:高3:120分)「感染症は予防が可能であるが、発展途上国では感染症が流行しやすいという問題がある。もしあなたなら、どのように流行を食い止めるか」本時のねらい ①科学の視点を持つ重要性を知る ②データ読解に慣れる ③情報をもとに仮説を立てる練習をする ④システムの中にある要素の関係性を把握したうえで、その解決策を提案する練習をする ⑤自己が身につけようとしている専門と社会課題解決の交点を探る★:オンラインの場合学習活動指導上の工夫・駆動質問・留意事項教材・教具アイスブレイク(15分)※宿題として、新型コロナウイルス感染症対策(マスク着用、消毒、手洗い・うがい、ソーシャルディスタンシング、クラスター対策など)の科学的根拠を調べるように指示するペアの組成、先攻・後攻の決定個人ワーク「LEGO®をつかって、『新型コロナウイルス感染症について自分が行っている対策』を表現しよう」ペアワーク「つくった作品について、ペアの相手にその作品の意味を語ろう」LEGO®★家にあるものをつかってつくるように指示ワーク①世界の5歳未満児の死亡率の現況と、率が高い国・地域の特徴を把握する(15分)問いの提示1 「5歳未満児の死亡率の高い国や地域の傾向を知ろう」ユニセフ『世界子供白書2017』統計データの表1:「基本統計」を提示するhttps://www.unicef.or.jp/sowc/pdf/01.pdf個人ワーク①「資料をもとに、5歳未満児の死亡率が高い国、地域を挙げてみよう」個人ワーク②「発散した付箋をもとに、どのような地域に5歳未満児の死亡率が高い国が集中しているのか、文章にまとめよう」※Googleフォーム等を使って投稿してもらい、スプレッドシートで投稿内容を全員で共有するのもよい。以下同様ワーク②5歳未満児の死亡率が高くなる事情・背景を探る(25分)問いの提示2 「5歳未満児の死亡率が高くなる事情を探ろう」JICA『国際理解教育実践資料集』の「2-2 保健・医療の問題」資料2『発展途上国で感染症が発生・流行する理由』を提示するhttps://www.jica.go.jp/mobile/hiroba/program/practice/education/materials/jhqv8b000005wd9w-att/2_2.pdf発散(個人ワーク)「グループで死亡率が高い傾向にある国のうち1つ選んで、その国で発生・流行する背景にはどういうことがありそうか、仮説を立ててみよう。ウェブを用いて調べ学習をしてもかまわない。」※付箋1枚につき、特徴や意味を一つ示す。※調べ学習として宿題にしてもよい。※特定の国を予め決めておいて、教員側で資料を示すことも考えられる収束(グループワーク)「発散した付箋を分野ごとにカテゴライズしてみよう」(経済・法・科学・政治・宗教・教育・芸術・マスメディア)※ワーク③の「発散②③」でのやり取りに時間がかかるので、グループの人数は少ないほうがよい。3~4人程度が適切か。※個人ワークの時点でカテゴリー毎に分担してもよい黄色の付箋(75×75mm)★ホワイトボードやJamboardを用いる。以下同様※調べ学習のためのICT機器を準備することが望ましい休憩(10分)ワーク③感染症の流行の原因・背景をもとに、解決のための提案をする(40分)問いの提示3 「感染症は予防が可能であるが、発展途上国では感染症が流行しやすいという問題がある。もしあなたなら、どのように流行を食い止めるか」発散①(個人ワーク)「これまでのワークで考えたことを振り返りながら、グループで選んだ国で十分な感染症対策ができない理由を、仮説として挙げてみよう」※青色の付箋1枚につき、理由を一つ示す。発散②(個人ワーク)「あなたならどういう予防法を提案するか、対策ができない理由を解消するようなものを考えてほしい。自分がすぐにできないようなものでも、直接的でも、間接的なものでもよい。自分が専門としたい領域でできることを、LEGO®を使って作品にしてみよう」発散③(グループワーク)「作品の意味をグループの仲間につたえてみよう」「発表者に『この形・色・組み合わせはどういう意味を込めているの?』などと、作品の意味をより詳しく聞き出して、発表者の内側にあることばを引き出そう」※赤色の付箋1枚につき、意味を一つ示す。発表者が気兼ねなく話せるように場づくりする。発言を付箋に書く人を決めておく収束(個人ワーク)「赤色の付箋で書き留めた内容を眺めてみよう。みんなが掲げた流行を食い止める案を実現するために、君たちはこれからどういう力を身につけていくとよいか。大学でどういう研究をすると未来づくりに貢献できそうか。」※緑の付箋1枚につき、力や研究内容を一つ示すLEGO®青・赤色・緑の付箋(75×75mm)リフレクション・チェックアウト(15分)学びの共有 「授業を受ける前と比べてどのように成長したか、みんなでシェアしよう」感情の共有 「メンバー同士の気持ちを整えるために、授業を通して自分の状態や気持ちを語り、みんなでシェアしよう」小論文の課題【ホームワーク】「感染症は予防が可能であるが、発展途上国では感染症が流行しやすいという問題がある。もしあなたなら、どのように流行を食い止めるか。」(800字以内)『小論文のルールブック(KADOKAWA)』の輪読※神﨑氏はLEGO® SERIOUS PLAY®(レゴ®シリアスプレイ®)のトレーニングを修了した認定ファシリテーターです。写真提供:工学院大学附属高校(東京・私立)で、「結果的に」文章内に論理性をもたらすのです。よって、論理的思考力を単独で教授するのではなく、さまざまな小論文課題やPBL(Project Based Learning)の中で学び取る授業設計が必要なのです。 左の学習指導例でも、このような科学の視点をもたらす具体的な方法を埋め込んでいます。るためには、講義型で知識を注入するのではなく、自ら知識を獲得し、最適解を見出す手続きを経ることが大切です。まさに科学の方法論に近く、回り道のようで本質的な力を身につけることになります。この手続きを経験するための授業は、ヴィゴツキーの最近接発達領域(他者の助けがあれば問題解決できる領域)を意識し、グループワークの中で高校生が自分で知識を獲得し、互いにその知識をシェアする設計にしています。「論理分析思考」「批判創造思考」そして「知識理解思考」を行き来するのです。同時に、ICT機器を使いながら情報検索の方法も教えています。また、情報科の授業と連携したり、図書館司書の先生に勉強会を開いてもらったりもしています。 「論理的思考力の養成」という言い方で、そのスキルだけを切り取って学ばせる指導者がいます。しかし、より大切なのは高校生に科学の視点をもたらすことだと思います。システムの中にある要素の関係を説明する力の育成に傾注すること492020 OCT. Vol.434

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