キャリアガイダンスVol.434
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野中先生にとって開智未来中学・高校は母校でもある。しかもその生徒のときに、工藤 智先生の授業を受けたことが、今の道に進んだきかっけでもあるという。 「小学生のころから教師にあこがれはありましたが、高校時代に工藤先生の世界史の授業を受けて、どはまりしたんです」 高校卒業後、工藤先生と同じ大学の史学科に進学。教師になって母校に戻り、そのあこがれの先生に師事した。 だから、野中先生の授業のルーツをひも解くには、工藤先生の授業とはどういうものかの説明から始める必要がある。その特徴は、独自作成の「マスターテキスト」を使っていることだ。授業中、生徒は板書をノートに写すのではなく、このテキストにマーカーを引いたり、書き込んだりする。 テキストの原型は、工藤先生が開智未来中学・高校に来る前、公立高校で教師をしていた時代に生まれたという。 「授業中も生徒が出歩くような学校にいたときに、『どうすれば生徒が世界史を面白がって勉強したくなるか』を考えたんです。板書を写させるより、話術で引き込もう。独自のテキストを作り、教科書の内容だけでなく、面白いエピソードや写真を散りばめよう、と」(工藤先生) 授業の形式は講義型。ただし一方通行ではない。問いかけによく反応する生徒を4月から探り、そうした生徒を軸に、次々に生徒に話を振り、ときに脱線し、ウケねらいの返答もうまく転がし、当意即妙のやり取りで歴史のストーリーをつむいでいく。答える生徒も、まわりで聞く生徒も楽しそうで、まるでアドリブ発言大歓迎の舞台の上にみんながいるよう。 そうして生徒が世界史を楽しんで学ぶようになると、その記憶とつながるマスターテキストを復習に用い、受験でも結果を出していく。野中先生は、まさにそれを体感してきた一人なのだ。晴れて工藤先生の同僚になると、自分の授業でもマスターテキストを活用させてもらい、授業の仕方も真似ることから始めたという。 しかし、マスターテキストさえ使えば良い授業になるわけではない。1年後、野中先生は「このままでは劣化版コピーになる」と危機感をもったという。 「話術や知識量などで工藤先生に追いつけていない自分では、授業中にうまく話を展開できないことがあったんです」 だから2年目からは、マスターテキストを使いつつ自分なりの授業のやり方を模索した。ペアやグループによる資料読解、意見交換、発表など、生徒同士で学び合う活動を増やした。資料提供や生徒の思考の支援にICTをどんどん活用した。野中先生の授業は、工藤先生とはまた違ったスタイルに発展していった。 でも目指した方向性は一緒だった。 「生徒が『世界史が楽しい』と思えるようにするには、自分だったら何ができるかを、いろいろ試行錯誤してみたんです」授業ができるまで面白く学ぶためのテキストが受験でも威力を発揮した真似るだけでは劣化版楽しい授業を自分でも模索HINT&TIPS1誰もが答えやすい質問を織り交ぜ、生徒とのやり取りを活性化させる授業では、野中先生の問いかけに生徒が思い思いに答える対話を何度も行う。その際に怖がらず答えられるよう、「平和十四カ条ということは何カ条?」など答えやすい質問も意図的に盛り込んでいる。結果、「これはどう思う?」という自由回答の質問にも、生徒はリラックスして思ったことを口にしていた。2前に学んだ場所や出来事について歴史の流れの中での復習を繰り返す前にも学んだ場所や出来事については「これはどの時代にどういう内容で出てきたんだっけ?」と問いかけ、生徒同士ペアで説明し合うことを求め、歴史の流れの中で復習することを繰り返す。今学んでいる時代とそれ以前の時代の結びつきを感じてほしいからであり、その場所や出来事への理解も深まるからだ。3授業でもテスト勉強でも、暗記ではなく「説明できる=理解している」状態を目指す工藤先生が作ったマスターテキストは、空欄に重要語句を書き込んだり、記載されたキーワードにマーカーを引いたりして活用する。ただし、その語句だけを暗記することは推奨していない。テスト勉強でも、テキストを見返しながら「歴史の流れを自分で説明できる=理解している」状態を目指そう、と促している。4生徒の関心が高まり、考えが深まるようにネタ集めや資料の選定・抜粋に力をいれる教師として歴史の本をたくさん読んで面白いことを見つけ、生徒と共有していくことを重視。資料の提供では、文書や写真や地図など、どの形で届けると生徒により響きそうかを考える。また、生徒が限られた時間で内容を読み取って考えを深められるよう、どのポイントを抜粋すればいいかも吟味する。生徒の使い込んだマスターテキスト(写真上)。野中先生はそれ以上にこのテキストを使い込んで勉強もしている(写真下)。■ INTERVIEW 公立高校で約30年、この学校で約10年、世界史を担当してきました。世界史の何が面白いかといえば、昔あったこと、この前あったこと、今あること、それらが「結びついているんだ」と感じられることですね。この感覚を味わうとやみつきになるんですよ。世界史はいろいろ結びつくから。そんな授業で生徒が笑っているのを見たときが、一番幸せですね。 歴史の結びつきをとらえる感覚は、この先いろいろな専門分野に進むうえでも役立つはずです。経営でも経済でも、建築でも医療でも、昔のことをさかのぼって今につながる流れを理解し、それを踏まえて自分の在り方を見つめ直す、というのは大切なことだと思うからです。 高校生だった野中先生のこと、覚えていますよ(笑)。私と同じ進路を志望したと聞いたときは、いずれこの学校に戻ってくるのかなと思いました。生徒の中に入っていけるのが野中先生の強み。得意とするICTも使いこなし、世界史の授業をさらに面白くしていってほしいと思っています。社会科工藤 智先生結びつきを発見する楽しさを知り自分の専門に活かしてほしい602020 OCT. Vol.434
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