キャリアガイダンスVol.434_別冊
2/7

2Vol.434 別冊付録 これからは大きな変化の時代を迎える、今までどおりのやり方では新しい世界を生き抜いていくことはできない――。このような議論は既にさまざまな切り口で展開されており、広い意味で「変化の時代」が到来していることについて異論がある人はもはやいないだろう。 新しい世界では、文理を超えた多面的で複合的な力が求められるということもたびたび論じられている。その一方で、文理融合教育に向けて、社会的に大きなシフトチェンジが図られているかというと、現実にはまだまだ課題がある。 例えば、高校の文理選択。それぞれのコースの生徒は大学などの受験科目に合わせて科目を選ぶため、2年生以降、数学や物理をほとんど学ばない文系コースの生徒、同様に歴史や地理をほとんど学ばない理系コースの生徒も多い。高校の段階での文理の分断は、当然ながら大学での学びにも影響する。その結果、文系・理系のどちらかに偏った人材が世の中に数多く輩出されることになる。 この実態が将来どのような問題を生み出すのか。まずは最も象徴的でわかりやすい例を挙げて考えてみたい。サイエンスライターの竹内 薫氏は次のように語る。 「これからの社会では、文系出身者を含むすべてのビジネスパーソンにプログラミングのスキルが必須とされるようになります。今の時代、データ、AI、アプリと無縁なビジネスなどありませんし、その重要度は今後さらに高まっていく。プログラミングがわからないのでは仕事ができないという時代が確実に訪れます。今のオジサン世代からは『プログラミングは専門家に任せればいい。我々は企画ができればいいんだ』といった声が挙がることもありますが、この分業的発想がもはや古い。今やテクノロジーに精通した人がテクノロジーを駆使したビジネスを企画する時代。そんな時代に、プログラミングもわからない人材にニーズがあるでしょうか」 必要なら社会に出てから学べばいいという意見もあるだろうが、基礎としての数学を学んでいないとプログラミングを表層的にしか理解できない。文系のビジネスパーソンが高校の数学から学び直すのは大変だ。竹内氏は、プログラミングが必須科目となった今の小学生が社会に出る十数年後には、プログラミングが今のワードやエクセルに相当する基礎レベルのリテラシーになると予測する。その頃、30歳前後の働き盛りになっている今の高校生にプログラミングのスキルがなかったら……。 もっともこのトピックは一例に過ぎない。誰もが「正解がない課題」に取り組むことになるこれからの社会では、文理融合はより深い、本質的なレベルで重要になってくる。 社会課題にしても、新しいビジネスにしても、私たちが直面する問題は複雑化している。「今までの続き」で特定の専門領域の視点からだけ考えていたのでは活路は見えない。 「だからこそ、文理の垣根を取り払ったバランスの取れた知性がよ取材・文/伊藤敬太郎VUCAワールド、第四次産業革命、コロナ後のニューノーマル……、今、さまざまな切り口から、既に私たちが足を踏み入れている「変化の時代」について語られている。このような世界を生きていくために求められる力を議論する際、キーワードの一つとして浮上するのが「文理融合」だ。では、なぜこれからの世界で文理融合的な思考やスキルが求められるようになるのか。このテーマに詳しいサイエンスライターの竹内 薫氏に話を聞いた。〈プロフィール〉筑波大学附属高校卒業。東京大学教養学部教養学科(専攻:科学史・科学哲学)、東京大学理学部物理学科卒業。マギル大学大学院博士課程修了(専攻:高エネルギー物理学)理学博士(Ph.D.)。サイエンスライターとして科学の本質や楽しさを幅広く人々に伝える活動を続ける。また、YES International School 東京校の校長として、既存の学校教育を超える多様な学びを推進。著書に『99.9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方』(光文社)、『理系バカと文系バカ』(構成:嵯峨野功一/PHP新書)、『文系のための理数センス養成講座』(新潮新書)、『面白くて眠れなくなる遺伝子』(共著:丸山篤史/PHP研究所)、『10年後の世界を生き抜く最先端の教育 日本語・英語・プログラミングをどう学ぶか』(共著:茂木健一郎/祥伝社)など。『ひるおび!』(TBS)にコメンテーターとして出演するほか、日本経済新聞などに連載中。サイエンスライター竹内 薫氏

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る