キャリアガイダンスVol.434_別冊
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3Vol.434 別冊付録する学問だ。つまり、人がよりよく生きること、社会を正しい方向に導くことをその目的としている。哲学にルーツをもつ医学や経済学などの学問もその目的は共通。だから、本来的な意味の教養は図1のように示すことができる。私たちが数々の課題を乗り越え、よりよく生きるためには、多様な学問の概念や思考法を総動員し、組み合わせて考えることが必要であり、それぞれの学問はそのような哲学としての目的を意識して学ぶことでより有用になる。その結果として身に付いた教養こそが「バランスの取れた知性」ということだ。 例えば、地域の高齢化問題を考えるとき、問題の全体像をとらえるには社会福祉学の視点が必要だし、問題を解決する施策を打ち出すには政治学や法学の視点が必要となる。数々の施策を持続的に実施するための予算を検討するには経済学の視点も求められる。高齢者の健康寿命を伸ばすという目的のためには医学が、独居老人の生活の充実を考えるには心理学などの視点も必要になるだろう。1人の人間がこのように多様な視点から問題をとらえ、それができる個々の分野の専門家が集まって、より高度な専門性を組み合わせることで、初めて問題解決が可能になるのだ。 バランスの取れた知性は、このような問題解決に際して、これまで生じがちだった文理のコミュニケーションギャップも解消する(図2)。典型的文系タイプ、典型的理系タイプがそれぞれの考え方に固執してしまうと、相手の考え方を理解することができず、どこまで議論をしても平行線をたどるばかりで接点が見出せない。 「わかりやすい例がスーパーコンピュータですね。かつて『2位じゃダメなんですか』で話題になった『京』は処理能力の数値的な高さを前面に出して強調したが、社会の幅広い理解を得られなかった。り必要とされるようになるのです。例えば、歴史を知らなければ過去の過ちを繰り返す恐れがあるし、科学を知らなければ量的・数字的な判断ができない。多面的に問題をとらえ、根本から問い直す思考ができるかどうかが問われる時代になってくるでしょうね」 その「バランスの取れた知性」とは教養(リベラルアーツ)と呼ばれるものだ。欧米の大学では、心理学、物理学、経済学、法学など多様な領域について学び、教養を身に付ける。では、教養とは学問分野の枠を超えて「知識の量」を増やすことなのだろうか。竹内氏はその見方に反論する。 「知識の量をどれだけ増やしてもこれからはAIには勝てません。また、バラバラの知識がどれだけあっても現実の問題解決に活かすことはできません。そうではなく、多様な学問を組み合わせて問題を分析し、解決する文理融合型の思考を身に付けることが大切なのです」 そこで、欧米で多様な学問がどのように体系づけられているかを改めて考えてみたい。欧米では博士号は多くの学問分野で「Ph.D.」(Doctor of Philosophy)とされている。数学であれ、政治学であれ、「哲学博士」と称されるのだ。この背景にはすべての学問は哲学から派生しているという考え方がある。 広義の哲学は、「真善美」を追究教養(リベラルアーツ)の中心には哲学がある図1バランスの取れた知性が文理のコミュニケーションギャップを解消する図2歴史学化学社会学物理学経済学数学法学生物学政治学宗教学情報学心理学環境学芸術学工学文学哲学広義の哲学。生きるために必要な「真善美」の追究相手に対して抱く感情コミュニケーションギャップ理屈ばかりで心に響かない数字や専門用語が多くてよく理解できない感情論や感覚論ばかりで論理性がない時代や社会の空気に影響されやすいお互いに文理にまたがる幅広い教養を身に付けることで、共有できる言葉・概念が生まれ、コミュニケーションがスムーズに!典型的文系タイプ典型的理系タイプ
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