キャリアガイダンスVol.434_別冊
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4Vol.434 別冊付録これは典型的理系タイプにありがちな伝え方で、文系タイプにはそのすごさがわからないんです。それに対して、2020年に発表された『富岳』は、最初の段階で『ウイルスの飛散をこのように分析できる』と現実的な社会問題に対する有用性を強調し、社会から大きな期待をもって受け入れられた。専門家でなくても理解できることを意識してコミュニケーションした成果だと思います」 竹内氏は、第四次産業革命を境に、社会全体にも、個人にも、図3にまとめたような大きな価値観の転換が起きると指摘する。旧式のマーケティングに基づいた大量生産・大量消費型のビジネスは限界に達し、自分がいいと思うものを、それを求める人にピンポイントで提供するビジネスが主流になっていく。それにともない、与えられた業務を的確にこなせる平均的にバランスが取れた人材よりも、何か突出した能力をもった人材へのニーズが高まっていく。 変化が少ない社会では、一つの技術や資格で一生食べていくという考え方も通用していたが、第四次産業革命後は、定型的な業務はどんどんAIに取って替わられてしまう。社会の変化に対応して自分自身も変化していくというキャリアを積み重ねていくことが求められるようになる。 このような変化の時代には、社会に出てからも常に学び続けることが必要になる。とはいえ、実際に学び続け、変化し続けている大人が、お手本として身近に数多く存在しているわけではないから不安に感じる高校生もいるはずだ。また、学ばなければいけないことの総量が増えることに負担感を覚える高校生もいるだろう。 「そこで大切になるのが、学び方を変えることです。受験を目的とした暗記型学習はつまらない。だからみんな勉強が嫌いになるのです。しかし、今、世界でも主流になっている探究型の学びは面白い。研究者をはじめ学ぶことを楽しんでいる人はみんなこの探究型学習をやっているんですよ」 では、若者は何を探究していけばいいのか。竹内氏は一言「自分が好きなこと」だと言う。例えば、コンピュータゲームが好きで「今までにないゲームを作りたい」と思い、探究を始めたら、いろいろな領域に興味が広がる。プログラミングやその基本となる数学が必要なのはもちろんだが、面白いストーリーを考えるために文学や歴史も学びたくなるだろう。魅力的なキャラクターを創造するためにデザインや美術にも興味が湧いてくるだろうし、音楽だって重要だ。人がゲームを面白いと感じるメカニズムを知るには、心理学を学ぶことにも価値がある。 このように一つのことを探究していくことで、さまざまな分野に学びたいことが広がっていく。つまり、「好きなこと」を「探究」する学びこそが、幅広い教養を習得するための学び方として最適なのだ。 新学習指導要領では「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」に変わり、名前に探究と付く科目も増えるなど、今後は、高校時代から探究的な学びに取り組む機会が多くなってくる。また、大学でもPBL(プロジェクト・ベースト・ラーニング)など探究型の学びを採り入れるところが急増。文理にまたがる多様な科目を履修できる大学も増えてきている。好きなことを探究的に学べる環境は徐々に整ってきつつある。 そこで大切になるのが学ぶ側の主体性だ。強いられて取り組むのでは探究にならないし、多様な科目をただつまみ食いするだけでは何も身に付かない。自分がやりたいことを意識しながら、自分の軸をもって学ぶことが必要になる。進路選択に際しては、第一に好きなことが学べるかどうかが重要だが、入学後にその軸を探すことができ、それをもとに主体的で多様な学びができる環境、カリキュラムが用意されているかどうかも大事なチェックポイントになるだろう。 なお、探究を通して興味をもった科目を、結局、暗記型で学んでしまうのでは本末転倒。それぞれの科目の面白さを知るためには教科書以外の本を通して、まずその学問の魅力に触れることが大切だと竹内氏はアドバイスする。 「例えば、数学に苦手意識がある文系の生徒・学生には、私とビートたけしさんの共著『コマ大数学科 特別集中講座』(扶桑社)などもお薦めの一冊。数学をエンターテインメントにしたテレビ番組を書籍化したものなので、文系でも気軽に楽しめます」 まずは何よりも学ぶ楽しさに目覚めること。それが幅広い教養につながり、これからの時代を生きる力を養っていくことになる。このロジックがわかれば、高校生も大学生もより前向きに文理融合型の学びに取り組めるようになるはずだ。第四次産業革命を境に大きな価値の転換が起きる図3第四次産業革命以前以後ビジネスのあり方大量生産・大量消費自分が好きなモノやサービスを求めている人に提供する学び方暗記型学習探究型学習必要な能力平均的にバランスが取れた能力個性に基づく突出した力キャリア一つの技術・資格で一生食べていく好きなことを軸に常に変化する

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