れを書いていいんだよ」などと声を掛け、記入のハードルを下げているという。 また、個人作業に加え、自分ががんばったことや成長した点について伝え合うペアワークを取り入れる教員もいる。「自分一人では行き詰まりがちですが、他の生徒と共有することで自分にない視点ももてると、振り返りの幅が広がります。また、自分のがんばりや成長を人に知ってもらい、『すごいね』の一言をもらうと、自信がつき、次への意欲につながると思います」(田邊先生) そして、3つ目のサイクルとして、「学びの報告書」の作成を通じた3年間の総括を行う(図2)。「学びの報告書」はキャリア・パスポートに記録してきた自身の活動やそこで学んできたこと、成長などを集約するシートで、今年度から3年生が6月に取り組む運用を始めた。その記入内容を、就職のための履歴書や進学のための志望理由書の作成、面接対策にも活かしている。 今年度、3年間キャリア・パスポートに取り組んだ最初の学年が3年生となり、進路決定を迎えた。従来なら、生徒たちは就職のための履歴書や進学のための志望理由書の作成に悪戦苦闘し、教員の進路指導にも労力がかかる時期だ。しかし、今年度は様子が異なる。教員が特別な指導を行わなくても生徒自身が「学びの報告書」を仕上げ、履歴書や志望理由書の記入にスムーズにつなげている。「自分のことを客観的に見て語れる生徒が増えました。振り返りを積み重ねてきた効果だと感じています」(田邊先生) 実際に振り返りのサイクルに取り組んできた3年生からは、がんばってきたことと自身の成長のつながりを実感する声が聞かれる。3年生の黒河尚弥さんは、1〜2年生のときは振り返る意味がわからず面倒にも感じていたが、3年生になって「その大切さがやっとわかった」という。「自分の強みは人との協働を大切にしていることだと思います。所属する剣道部では、チーム力を大事にして活動し、みんなで力を合わせて勝利を重ねてきました。そのなかで『協働する力』が徐々に伸びてきたのだと、キャリア・パスポートを見返してみて改めて感じました。来年は社会人になりますが、就職先に選んだのは、社員同士の協働をモットーにしている企業です。自分の強みや大切にしたいことに目を向けてきたことが、進路選択にも役立ち、自分に合う企業への就職につながったと思っています」(黒河さん) また、振り返るなかで自分の目標を明確にしていった生徒もいる。3年生の藤原里紗さんもその一人だ。「2年生のとき、地域の他校生と一緒に地域情報誌を作る課外活動を始めました。普段は忙しくて余裕がないのですが、節目に立ち止まってキャリア・パスポートに取り組むことで、自分が何を学んできたのかを振り返ることができ、将来やりたいこともはっきりしてきました。私はこれまで人から勧められて『保育士になりたい』『社会福祉士になりたい』などと言っていましたが、今は自分が地域活動で成長した経験を基に、『学校と地域をつなぐコーディネーターになって子どもたちが伸びる支援をしたい』と考えています。その目標に向けて、大学に進学し地域社会と教育を学びたいと思っています」(藤原さん)「主体性を育みたい」という思いから出発し、地域課題探究をはじめとするキャリア教育の充実を図るだけでなく、その効果を高める振り返りを強化してきた同校。今後は探究活動の取組が一層広がることが期待される。「地域課題の解決策というと、大上段に構えて介護や少子化など大きなテーマに目がいきがちです。しかし、振り返りを行っていくなかで、音楽やスポーツなど自分が打ち込んでいるものや得意な面を自覚し、それをどう地域に役立てられるかという自分を主語にした発想ができるようになると、地に足がついた高校生ならではの提案も多くなるだろうと楽しみにしています」(錦織先生) キャリア・パスポートは市内の小・中学校でも導入されており、今年度の同校入学者には中学3年間キャリア・パスポートに取り組んだ生徒も多い。「振り返りを次に活かす取組が小中高とつながったとき、キャリア・パスポートの本当の効果が出るはず。小学生からの学びの蓄積が今の自分を形成していることを感じながら将来像を語れるような生徒が今後増えていくのではないか」と錦織先生。そうした生徒の変化に応じ、手法は柔軟に変えていく方針だという。「大切にしたいのは、目の前の生徒の力を伸ばすために何が必要なのか、常に考えていくこと。定期的に実施するアンケート結果なども踏まえ、生徒の状況や学校の課題に合わせて、重点的に掲げる資質・能力や、振り返りの手法を常にアップデートさせていきたいと考えています」(錦織先生)剣道部の活動に力を入れてきた黒河さんが3年1学期に記入したキャリア・パスポート。1年生のころと比べると、「協働する力」の自己評価レベルが2から5にアップした。(写真上)藤原さんは地域活動に取り組むなかで、自分がやりたいことを発見。2年3学期のキャリア・パスポートに、「コーディネーターになりたい」との目標を書いている。(写真下)※ダウンロードサイト:リクルート進学総研>> 発行メディアのご紹介>> キャリアガイダンス(Vol.435)自分の目標や強みを見つけ将来の展望へ生徒の変容生徒の変化を後押しし、見取り取組内容を進化させていく今後の展望「学びに向かう力」を育むリフレクション授業、探究、HR、部活動・・・実践事例192020 DEC. Vol.435
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