ときは一人だけれど、チームで戦っている」「コミュニケーションをとって同じ方向性で取り組みたい」と口々に語る。その思いが、日常的に、ほかのメンバーに相談したり、助言をしたり、お互いを高め合うチームの姿につながっている。 リフレクションの仕組みが定着して練習の質が高まると、試合結果もついてくるようになった。福田先生は「弓道技術の向上はもちろん、それ以上に意欲や態度など人としての成長を感じる」という。 ある卒業生は、中学時代までは何かに打ち込むこともなかったが、弓道部で自分にできることを一つずつ積み重ね、いつしか「やってみたら簡単ですね」が口癖に。3年生のときには国体準優勝という快挙を遂げ、後輩たちから憧れられる先輩となった。現在は大学で弓道を続けるとともに、「自分のような生徒をすくい上げる教師になりたい」という目標をもって勉強にも熱心に取り組んでいる。 現役の部員からも、自身の成長を自覚する声が上がる。県大会優勝や全国大会出場などの実績を上げてきた3年・笠原利基さんは、「日頃から気づいたことを自分の言葉でメモをとる習慣がついた。それが深い理解や強い思いにつながるからか、学習成績も上がった」と、部活以外の面にも好影響があるようだ。 前部長の3年・田村由珠さんは、以前は控え目な性格だったが、日々弓道が上達するために何をしたら良いかを考えて取り組むなか、何ごとにも積極的に行動するようになったという。「大学進学後も、弓道部でやってきたように日々を振り返りながら、目標に向かって一歩ずつ歩んでいきたい」と将来への意欲を燃やしている。 生徒が3年間の練習や試合で書きためるシートは一人1000枚近い。これをとじたファイルは弓道場に保管していつでも見られるようにしているが、卒業式の後に生徒に手渡している。 「この数冊のファイルを持つと、自分が積み重ねてきたことの重みを物理的に実感できるはず。これだけ自分に向かい合ってがんばってきたのだと、自信をもって、卒業後それぞれの道を歩んでいってほしいと思います」(福田先生) これまでシートのフォーマットは何度かリニューアルしている。最初は記入ガイドを作成して丁寧に教えても自分の状況を言語化できない生徒も多かったが、今では印刷した用紙の在庫が切れると各自で白紙に記入するなど、ポイントを押さえた振り返りが習慣化した。それに従い、フォーマットはシンプルな内容に変えてきた。 「理想は、規定のフォーマットがなくても、自分で必要なことを記録し振り返りができること。こちらが用意するシートは、一人ひとりがそこに至るための成長を支援するツールだと捉えています」(福田先生) 自分の状態を言語化することで自己理解を深め、自ら次の一歩を踏み出す流れをつくってきた福田先生。今後、弓道部以外の顧問になったときも、「この仕組みをぜひ取り入れたい」という。教員に技術指導ができない部活や、生徒が主体となる学びなど、学校のさまざまな場面で参考になる取組といえそうだ。●日々の「的中記録表」には、「直すこと」より「できたこと」を探して書き入れるようにしてきました。直すことが多いと暗い気持ちになりますが、できたことがたくさんあると前向きに次の練習に臨めるからです。その繰り返しのなかで、控え目でいたらうまくならないと思うようになり、自分から先輩や先生に指導をお願いしたり、思ったことをため込まず発言したりするようになりました。自分の言動を大きく変えるきっかけとなった、弓道部の3年間と福田先生に心の底から感謝しています。(田村さん)●試合間近の練習では、焦りでスランプに陥ることもあります。そんなときは過去の記録表を開いて、調子が良かったときはどんな状態、意識でやっていたかを確認し、自分を立て直すようにしています。また、試合のときの状態も「心臓がバクバクした」など記録しておくことで、「試合では緊張するもの」と自分の弱点を受け入れられるようになり、精神面で崩れることが減ってきました。過去の自分があって、今の自分がある。自分を見つめて記録しておく大切さを実感しています。(笠原さん)写真左から、3年生の田村由珠さん、笠原利基さん。自分を受け入れ立ち向かう強さを身につけた生徒インタビュー大きな大会で悔しい結果となり、率直な思いや今後への決意を忘れないよう独自に書き留めた。赤字は福田先生からのコメント。試合で力を発揮できなかった経験が次につながるよう、福田先生はコメントで支援している。人として大きく成長自信をもってそれぞれの道へ生徒の変容自らリフレクションできる生徒を育てたい今後の展望222020 DEC. Vol.435
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