CASの5つの段階によるサイクル図学びのサイクルで、我々教員も同じ概念を共有しながら、振り返りをサポートできるようになったのです。IB導入のために教員も勉強し、生徒にどう成長してほしいかを共通言語で整理できたことで、振り返りの精度が高まったと感じています」(松﨑先生) CASはIBのコアプログラムの一つとされているが、授業が毎週あるわけでもなく、決まった学習内容があるわけでもない。基本は、おのおの生徒が、自分がやりたいと思ったCreativity, Activity, Serviceのいずれかの活動に、好きなときに自発的に取り組む、という課外活動だ。 具体的にはどんな活動をするのか。実例を挙げると、学校のゴールポストのペンキ塗り、友人の英検対策の手伝い、といった1日の活動もあれば、コロナ禍にクラス全員で毎日続けた体幹トレーニング、といった継続的な活動もある。また、後輩にIBのことを伝えるためのイベントの開催やWebサイトの制作、学校の寮の食堂の残飯を減らすためのプロジェクト、SDGsを知ってもらうための絵画の作成と校内展示など、時間をかけて取り組む活動もある。 こうした活動をただやるだけなら一般の課外活動と変わらないが、CASの活動としては、そこにいくつかの要素がプラスされていく。 まず一つは、生徒がやりたい活動を「どういうプロセスで進めるとよいか」という点について、面談による説明や、資料の配布で、事前に示していることだ。右上の「学びのサイクル」の図の内側の円にあるように、「調査」「準備」「行動」の順に進めることを基本とし、各段階で「振り返り」も行う。 二つ目は、生徒がCASの活動を行ったら、「7つの学びの成果」のうちのどの学びがあったか振り返ることも含めて、ICTを使い、オンライン上のポートフォリオに記録することだ。その活動記録を、担任やスーパーバイザーの先生が見守り、コメントを返したり、HRの時間などに直接相談に乗ったりする。 このときの先生と生徒のやり取りがポイントになるという。IBDPコース3年生の担任、ニクライ ゲルゲイ先生は、「活動の中身について、私たちがあれをやれ、これをやれ、と言うことはありません」と語る。 「CASの活動は、生徒が自分で『やりたい』と思って挑戦することが大切だからです。ただ、活動記録を見ると、何をしたかの事実は記述していても、何を学べたかまで深く考えを落とし込めていないことがあります。そんなときに『なぜうまくいったと思う?』『もう1回やるなら、どうすればもっとうまくいく?』『相手の話をどう受け止めた?』などと問いかけ、さらに振り返りを促します。活動の中身を評価してコメントするのではなく、『活動したことが学びの成果につながっているか』をチェックし、曖昧ならば、生徒が自分で考えを深めていけるようにフォローするのです」 IBDPコース2年生の担任である清沢健二先生は、活動の振り返りで「生徒一人ひとりの自己認識を高める」ことも狙っているという。 「生徒の活動について『このときにどう思った?』『どんな感情を抱いた?』といったことも質問し、自分自身を見つめてもらいます。その積み重ねで『自分とはどういう人であるか』ということがわかってくると、そんな自分はこCASは2つのサイクルで進められる。一つは、内側の円のように「調査」「準備」「行動」とその都度の「振り返り」を重ねるプロセス。もう一つは、外側の円のように、学んだことや達成したことを「振り返り」で明確にし、他者に「実際に示すこと」で、自己認識を深め、他者の反応も喚起するプロセスだ。自ら学び成長していく能力調査振り返り実際に示すこと行動準備振り返り振り返り振り返りCASは課外活動だが、茗溪学園中学校高校では、年に数回、HRにクラスでの振り返りもしている。班を組み、おのおのが自分の活動を「7つの学びの成果」の観点から振り返り、まとめて発表するのだ。活動で「何をやるか」以上にそこからの学びや成長を重視実践出典:IBO(国際バカロレア機構)『「創造性・活動・奉仕」(CAS)指導の手引き』※上記出典の図版に、編集部が「自ら学び 成長していく能力」の言葉を加筆242020 DEC. Vol.435
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