すことを意味し、「学習者が継続的に自らの思考を改善し、集団のウェルビーイングに向かって意図的に、また責任をもって行動するための反復的な学習プロセス」であると解説されています。これをすればどうなるだろうかという予測・予想を立て、実際にアクションを起こす。自らの取組・経験を振り返り、そこで得た気づきや学びをまた次の予測・予想やアクションにつなげていく。Education 2030プロジェクトの概念が盛り込まれている新学習指導要領の言葉を使って表現すると、このサイクルを継続的に繰り返すなかで、学びがより深まり、これからの時代を生きるうえで必要な資質・能力が身につき、主体性や学びに向かう力が養われ、より良い未来の創造に向かうようになる…ということになるでしょう。 AARサイクルにおいてまず大事なのが、「行動」の原動力となる「見通し」です。日々の学びにおいては、課題設定と強く結びつくプロセスです。ここで重要なのが、英語のAnticipation(見通し)には「ワクワクする」というニュアンスが含まれることです。知的で論理的、理性的な〝予想・予測〞という理解にとどまらず、未知の世界と出会ったり新しいことに挑戦したりするときのワクワク感のような、学びへの動機づけになる〝予感〞や〝期待〞も含めて理解すると、課題設定のヒントにもなるのではないかと思います。 OECDでは、2015年からEducation 2030プロジェクトを進め、「2030年に望まれる社会のビジョン」ならびに「そのビジョンを実現する主体として求められる生徒像とコンピテンシー(資質・能力)」を追究してきました。このプロジェクトの第1フェーズの最終報告書として公表されたのが、「OECDラーニング・コンパス(学びの羅針盤)2030」(図1)です。 ラーニング・コンパスとは、生徒が主体的・自律的に物事に取り組む姿勢、つまりエージェンシーをもって、望む未来(社会のウェルビーイング)へと進むための〝羅針盤〞を意味します。そこでは、「学びの中核的な基盤(知識、スキル、態度・価値)」、それを基に育成される「より良い未来の創造に向けた変革を起こすコンピテンシー(新たな価値を創造する力、責任ある行動をとる力、対立やジレンマに対処する力)」が生徒に求められるとされています。そして、これらの資質・能力を育成するために必要なプロセスとして、リフレクションを含む「AAR(Anticipation・Action・Reflection)サイクル」が提唱されています。 AARサイクルとは、学びにおいてAnticipation(見通し)、Action(行動)、Reflection(振り返り)を繰り返あきた・きよみ●大阪府生まれ。東京大学文学部卒業後、銀行員、専業主婦を経て東京大学教育学部に学士入学。同大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。専門は発達心理学、教育心理学、保育学、学校教育学。立教大学文学部助教授を経て、2004年東京大学大学院教育学研究科教授。19年に東京大学初の女性学部長、研究科長に就任。OECDの協力の下に生まれた産学コンソーシアム「日本イノベーション教育ネットワーク」の研究統括責任者も務める。東京大学大学院教育学研究科長・教育学部長秋田喜代美リフレクションは、生徒に必要な資質・能力を育成するプロセス「見通し・行動・振り返り」の繰り返しが、生徒自身の幸せな未来創造へとつながるOECDが2019年に公表した「OECDラーニング・コンパス(学びの羅針盤)2030」のなかでも、「リフレクション」というキーワードが出てきます。どのようなものとして位置づけられているのか、OECD Education 2030における議論に参加し、ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)の訳出においても中心的な役割を担った、東京大学大学院の秋田喜代美先生に伺いました。見通し・行動・振り返りにより生徒の学びに向かう力が育つ自分にとっての意味を深め、社会とのつながりへと広げる取材・文/笹原風花282020 DEC. Vol.435
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