には社会や学問、未来とどうつながっているのかというところまで広がっていく。こうして縦にも横にも広がりが生まれることで、学ぶ面白さや納得感、意義や価値が見えてくるのです。「見通し」によりワクワク感が、「行動」により達成感が得られ、「振り返り」により自己効力感が生まれ、次なる学び(行動)への動機や意欲、やり抜く力やレジリエンス、さらには「どういう目的で何をどう学ぶか」を自分で決める自己調整力が育まれる。AARサイクルを通して、先に述べたコンピテンシーに加え、社会情動的スキルも育成されると考えています。 近年は、高校の学びにおいても振り返りシートなどが用いられるシーンが多く見られるようになりました。生徒の学びの履歴をポートフォリオに残す動きも進んでいます。先述したように、リフレクションは自己完結せず、他者へ、社会へと広げていくことが重要であり、そのためには対話による振り返りが不可欠です。なかには自身で振り返るのが難しい生徒もいます。特に書くことが苦手な生徒に対しては、対話から始めることが大切であり有効です。教師や仲間からの働きかけが、生徒の振り返りをより豊かにするのです。大事なのは、リスペクトとエンジョイメント。先生方には、「これいいね」「こういう視点はほかにないね」と生徒一人ひとりを尊重し、学ぶ楽しさや手応えを感じられるような支援をしていただきたいと思います。 リフレクションは生徒の主体的で深い学びに不可欠なプロセスですが、これが目的化してしまっては本末転倒です。大事なのは、生徒の幸せな未来、ウェルビーイングのためのリフレクションであること。何が重要なのかという本質的な問いと向き合い、振り返り、生徒自身が自分の物語を紡ぐサイクルを自ら回していけるようになることが最終的な目標です。その過程においては、生徒と教師との共同エージェンシーが不可欠です。生徒の学びの変化に伴い、教師に求められるものも変わります。OECDのEducation 2030プロジェクトでは、第2フェーズとして、教師に向けた〝ティーチング・コンパス〞の検討を進めています。先生方にもぜひ、自分たちがどう生徒に働きかければよいか、リフレクションを大切にして深めていただきたいと思います。 続く「行動」の後の「振り返り」もまた、AARサイクルを回し続ける、つまり、知的好奇心をもち主体的に学び続けるうえで不可欠なものです。ここでいう「振り返り」とは、単なる反省ではなく、何がどれだけできた・できなかったかという外的な基準による評価でもありません。AARサイクルの定義づけにもその研究が引用されているジョン・デューイは、リフレクションについて「自分が考え取り組んだ課題に対して、自分はどうだったかを振り返り、批判的に探究すること。継続的に、思慮深く注意深く考えること」と述べています。自分が取り組んだ課題や学び方は自分にとってどういう意味をもっていたのか、なぜうまくいった・いかなかったのか、次はどうすればよいか…と、具体的により深めるのがリフレクションなのです。 また、ラーニング・コンパスでは、個人のエージェンシーと同時に周囲の人々と協働して発揮する「共同エージェンシー」を重視しており、「振り返り」においても、他者と共に学びを振り返る、対話をしながら振り返る、という視点が大事になります。自分にとってどうだったかだけではなく、他者からフィードバックを受けることで、自分の経験や学び、発見が他の人にどういう意味や影響を与えたのか、さら図1:OECDラーニング・コンパス(学びの羅針盤)2030※OECD発表の図版・仮訳をもとに編集部で作成幸せな未来に向けて、生徒が自分の物語を紡ぐ活動に「学びに向かう力」を育むリフレクションReflection × OECD292020 DEC. Vol.435
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