キャリアガイダンスVol.435
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そのためにはどの大学のどの学部なら学べるのかを自分で深く考え、調べるよう動機づけるのが目的です。実際、自分の言葉で書くことを通して、少しずつ生徒のなかに自覚が生まれてくるように感じます」 自己理解シートは、年2回の教育相談(個人面談)や三者面談の際の参考資料としても利用される。年度末に書いたものは次の学年の担任に引き継がれ、3年進級次には進路サポーターにも共有される。また、志望理由書や履歴書を書く際の資料にもなり、まさにポートフォリオやキャリア・パスポートとしての役割を果たしている。 自己理解シートを含む進路の手引きは毎年5月に生徒に配布してきたが、今年度は休校のために分散登校が明けた6月中旬の配布となり、進路指導もそこから本格始動となった。高卒の就職試験の応募開始が1カ月後ろ倒しになったこともあり、「進学か就職かで迷った生徒が例年以上に多く、今年は生徒の心のケアも含めてよりきめ細やかな対応が必要になっている」という。 「日々の業務に忙しいなか進路サポーターを務めるのは易しいことではありませんが、生徒の進路実現という大目標に向かって教員みんなが同じ方向を向いて取り組めるよう、これからも進路指導部として下からしっかりと支えていきたいと思います」意見が合わずにもめることが少なくないので、意向確認のために必ず保護者に書いてもらっている」という。そして4つ目が、「進学・就職に関わる社会環境」。進学希望者は、第一志望校進学にかかる費用を調べて記入する。この4項目を受け、生徒は自分の進路希望を書き記す。さらに裏面でも、成績の記録、生活態度などの自己評価、進路や今後の目標について記入するようになっている。 「自己理解シートでは、自分で調べる・考える、知り得たことを言語化する、ということを大事にしています。大学進学を希望している場合は、志望校はどこか、大学で何を学びたいのか、さらに、入試はどうで費用はどれくらいかかるかという現実的なことも確認させます。漠然と大学に行きたいと考えている生徒も多く、イメージではなく具体的に何を学びたいのか、大事なのは、大目標に向かい、みんなが同じ方向を向くこと 進路サポーター制度の導入時には3年生の学年主任をしていた佐藤先生。導入前後の変化を肌で感じてきた。 「生徒の多様な進路に対応する必要があり、3年生の担任はとにかく大変だったのですが、履歴書や志望理由書の書き方指導や添削といった〝How〞の部分を進路サポーターの先生に任せることで、生徒一人ひとりの進路選択の本質である〝Why〞にフォーカスできるようになりました。また、進路や将来について複数の先生から意見やアドバイスを聞くことで、生徒は多様な価値観に触れることができます。総合的に見て、進路指導の質は確実に上がったと感じています」 また、学校を挙げての取組により、教員にも変化が表れている。 「担任と進路サポーターという立場で、学年や分掌、教科を超えて、生徒の情報共有などちょっとしたことを話すシーンが多く見られるようになりました。生徒の成長や目標達成を共有し、喜び合える同僚がいるというのは、教員にとってとても嬉しいことなんですよね。また、進路サポーターになった若手の先生が、私のところに質問に来たり、進路指導室で大学や入試の情報を調べたりする姿をよく見かけます。教員自身が勉強しておかないと生徒にアドバイスはできませんから、そういう意識が芽生え行動してくれていることを頼もしく思います」 『羅針盤』の発行などを通して進路指導のさらなる充実を進める佐藤先生が、今後重点的に取り組むべき課題だと感じているのが、生徒の「書く力」だ。 「これまでも自己理解シートの記入などで、自分のことを自分の言葉で書く機会を設けてきましたが、まだまだ足りていないと感じます。入試改革や教育改革により、自分で考えて文章を書く力がこれまで以上に求められるようになっています。もちろん、これは大学や社会に出てからも必要になるスキルです。しっかりと書けてこそ話せるようにもなるので、今後は国語科とタイアップするなどして、自分の意見や思いを言語化する力、それを人に伝わる文章として書く力を育成していきたいと考えています」教員の連携が進み、進路指導の質が向上。今後の課題は生徒の書く力進路指導部が教員に向けて発行している『羅針盤』。最新の求人状況や進路指導のto do、how toが事細かに記されている。担任と進路サポーターの双方に発信することで、目線を合わせ、連携をスムーズにする狙いもある。進路サポーターの教員は必要に応じて面接の練習や小論文の添削なども行い、生徒の進路指導の“How”を担っている。422020 DEC. Vol.435

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