キャリアガイダンスVol.435
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432020 DEC. Vol.435誌上 進路指導ケーススタディ 先に進めない生徒と どう向き合うか進路選択の過程には紆余曲折が付き物です。時には壁にぶつかり先に進めない生徒も少なくありません。そんな生徒が一歩踏み出せるように関わる際に、教師が理解しておくと役立つキャリア理論の一つが、クランボルツの「計画された偶発性(Planned Happenstance)」です。今回は、この理論を役立てたケースを取り上げてみたいと思います。取材・文/清水由佳 イラスト/おおさわゆうこんなケース1進路調査に何も書かず提出する1年生2目指した職業に迷いが出てきた2年生3就職内定先が不安になってきた3年生第17回かりまざわ・はやと●1986年岩手大学工学部卒業後、岩手県の公立高校教諭に。早稲田大学大学院教育学研究科後期博士課程単位修得退学。教育学、教育カウンセリング心理学を専門とする。2015年4月より現職。会津大学 文化研究センター教授 苅間澤勇人先生 【監修&アドバイス】では、昔から憧れていた航空業界を断念しなければいけない学生が出たり、改めて自分が社会にどのように貢献できるかを考え内定先を再検討し始めた学生などもいます。時代の変化が激しいなかでは不確実なことが多く、目標そのものに固執すると、選択の幅を極端に狭めることにもなりかねません。 その点、心理学者ジョン・D・クランボルツ(John D.Krumboltz)は、1999年に「計画された偶発性(Planned Happenstance)」を発表し、「キャリアの80%は予期しない偶然の出来事によって形成される」と示しました。例えば、中学時代にたまたま友達に誘われて始めたバンド活動がきっかけでプロのミュージシャンになったり、たまたま出会った歴史の先生に影響を受けて教師を目指したりなど、多くの人の選択には、「たまたま」の出会いがよく語られます。だからこそ、そのような偶然の出来事を「主体性や努力によって最大限に活用し、力に変える」とともに、「偶発的な出来事を意図的に生み出すように、積極的に行動する」ことが大切だと説きます。 そして、偶然の出来事を招き寄せ、活かすためには、オープンマインドでいることが大事だと説きます。従来のキャリアの選択では、「将来がよくわからない」「決められない」といったような状況はあまり好ましいことではなく、「はっきりした職業の目標をもつ」ことが大切 何かを成し遂げていくには、明確な目標をもち、達成に向けての努力を続ける必要性があります。しかし一方で、今回のコロナ禍のように、誰もが予想しなかったような出来事によって世の中の状況が一変すると、目標そのものが実現不可能になったり、気持ちに変化が生じたりします。今年の大学4年生だと言われがちでした。しかし、それをクランボルツは、「未来の配偶者を決めないと、デートができないような状況」と言い、未決定(Indecision)であるからこそ新しい学習が促進されると肯定します。そのため、選択肢をオープンにしておきながら一歩ずつ行動を起こし、それぞれのステップから生まれるチャンスを見極め、活用していくというスタンスが、人生やキャリアの幸運を引き寄せると説きます(図1)。また、オープンマインドでいることは、受験に失敗し、志望校に入れないという挫折を味わっている生徒にも必要な姿勢です。目標をもつことが悪いのではなく、目標に縛られ視野が狭くなり、偶然の出来事に出会う行動を起こせなくなるということが問題なのです。目標は常に書き換えが可能だということを、クランボルツは強調します。 だからこそ、そのような行動を生徒ができるように「行動を起こすことを支援」し、「行動のなかで学習できるように促進」していくことが、相談者である教員には大切になるでしょう(図2)。● 好奇心(curiosity) 新しいことに興味をもち続ける● 持続性(persistence) 失敗しても諦めずに努力する● 楽観性(optimism) 何事もポジティブに考える● 柔軟性( exibility) こだわりすぎず柔軟な姿勢をとる● 冒険心(risk taking) 結果がわからなくても挑戦する図1 計画された偶発性を招く行動特性● 次にとるべき行動を相談者と協力的に考案する● 一度に一歩ずつ● それぞれのステップから生まれるチャンスを見極める● 選択肢をオープンにしておく図2 支援者がとるアプローチの留意点進路指導に役立つ理論●計画された偶発性理論を活かす

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