キャリアガイダンスVol.435
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AO・推薦指導についての実績を残してきた神﨑氏による連載も5回目。今回は論に「深さ」がある小論文にするための指導法を紹介します。 ーンがあるか③ 構造(システム) ・これらのパターンを引き起こすために働いている力は何か ・どういう要素が、お互いにどのように影響し合っているか④ メンタル・モデル ・この状況を許すような私たちのものの考え方(信念・前提・態度)は何か ①出来事をそのまま受け止めて解決しようとすると、対症療法としては有効でも、その裏側にある問題を見つめているわけではありません。結果として、根本的な解決には至りにくくなります。 課題を取り巻く全容を理解するためには、まずは水面下に潜り込み、問題発生の②パターンを見つけることから始めます。例えば、いま見つめている課題が地域特有のものだと自分では思っているかもしれませんが、ほかの地域で同様の構図で同じ時期に起こっているかもしれません。このように、偶然とは思えないかたちで因果関係のない出来事が同時に起こることをシンクロニシティといいます。 そして、同時多発的にその課題が起こるということは、そのパターンを生み出す③構造(システム)が存在するのではないかと推測します。「構成要素」を洗い出し、どういう要素がどういう力を及ぼし合っているのかを整理します。 一方で④メンタル・モデルを見つめます。システムは人をはじめとした構成要素が作り出し、システムの存在を許します。それを生み出した信念や態度はどういうものか、ということも観察します。 我々はとかく目の前に起こる事実や感情に囚われがちですが、その事実や感情がどういう意味をもつのか、というところまで見つめることができて、ようやく根本的な問題解決の方策が考えられるものです。 こうしたシステム思考の視点から小論文の答案を見つめると、さまざまな気づきが得られます。例えば、途上国の子どもの貧困問題をテーマとして取り扱うとき、高校生のなかには「先進国の私たちは寄付や募金をすべきだ」と解決策を論じるケースがあります。しかし、それでは「①出来事」だけを見つめて解決策を示しているにすぎず、浅い思考のままと言わざるを得ません。ここで「それは氷山の一角ではないか」と一度立ち止まってみる必要があるということです。 小論文の答案に対して「論が浅い」「論を深掘りせよ」と指導することがあります。しかし「論が浅い(深い)とは何か」と問われると返答に困ることがあるものです。前回述べた「科学者の視点」とともに、深い議論の末に論じることは、説得力のある答案の必須要件でもあります。 私は授業の中で「システム思考」を基に課題を見つめてみることを勧めています。目の前で起こる課題は何らかのシステムが引き起こしているものであるから、構成要素が相互にどう関係するのか、全体像を捉えようとする思考のあり方を「システム思考」といいます。 ピーター・センゲ氏は著書『学習する学校』において、「氷山の一角」という表現を用い、その裏側にははるかに大きな問題が隠れていることを指摘します。システムの観点から言えば、特定の出来事(氷山の一角)に焦点を置くことは、その問題がもつ複雑性から目を逸らさせる一因となるというのです。氷山モデルの詳細は書籍を読んでいただきたいのですが、この誌面では問題の意味を理解するエクササイズの要点を簡単に説明します。① 出来事 ・何が今起きたか② パターン ・こうした状況に類似した事例やパタ「氷山モデル」で問題の深さを理解するシステム思考と小論文指導の視点● 氷山モデルとシステム思考出来事パターン構造メンタル・モデル意識・無意識の前提482020 DEC. Vol.435

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