キャリアガイダンスVol.435
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神﨑史彦かんざき・ふみひこ●1978年生まれ。1996年に法政大学に法学部論文特別入試で合格。在学中より塾講師を務め、卒業後は大学受験予備校などで小論文の講義を担当する一方、模擬試験の問題作成者として活動。20冊の学習参考書を出版。現在は自らの塾を経営しながら、講演や私立学校での講師を務め、全国各地の高校教育改革、高大接続事業のコンサルティングを行っている。2020年4月よりスタディサプリ講師に就任。社会人大学院生(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科)。21世紀型教育機構アクレディテーションメンバー。● 学習指導例(講座4回目、対象:高3:120分)「経済的な格差が拡大しているのはどのようなことが原因なのか。また、格差が拡大する状況に対して、誰(何)が、どのような対策を検討するべきか、あるいはするべきでないか」本時のねらい ①社会問題が生じるシステムおよび構成要素を把握する ②問題発生の要因の複雑性に気づく ③異なるところで発生する社会問題に共通するパターンがあること、個別具体の要因があることに気づく ④ ①~③を基に、その解決策を提案する練習をする★:オンラインの場合学習活動指導上の工夫・駆動質問・留意事項教材・教具アイスブレイク(15分)※事前にグループを分ける。ひとグループあたり4名程度が適切。グループでシェアする際に人数が多いと時間がかかるので、そのための措置が必要。<事前ワーク(宿題)>・グループごとに異なるテーマを与える。カースト、アパルトヘイト、士農工商、ワーキングプア、アメリカの格差拡大、フランスの雇用格差など、国や地域における格差に関わるテーマとする。・グループのメンバーは考察する社会システム(経済・法・政治・宗教・教育・文化など)を一人一つ選択する。①どういう格差があり、②その国や地域はどのような社会システムになっており、③ ①②が起こる背景や経緯はどういうもので、④富はどの層に集中し、⑤結果としてどういう問題を引き起こしたのかを整理する。※グループごとに着席し、ペアの組成・先攻・後攻を決定する個人ワーク「LEGO®をつかって、『格差 とは何か』を表現しよう」ペアワーク「作った作品について、ペアの相手にその作品の意味を語ろう」※調べ学習のためのICT機器を準備することが望ましい。LEGO®※LEGO®の代わりに、身の回りにあるものを材料に作品を作っても良い。★家にあるものを使って作るように指示。ワーク①「格差」を引き起こすシステムの複雑さを理解する(35分)問いの提示1「自分たちが調べてきた格差問題を引き起こすシステムとは何か(システムの複雑性に気づく)」個人ワーク「LEGO®をつかって、どういう社会システムから、どのように格差が生じたのか、表現しよう」発散①(グループワーク)「作った作品について、グループのメンバーにその作品の意味を語ろう」※発言の内容はメモに残すように指示する。ホワイトボード等に記録しておくのも良い。記録したものは、のちの宿題で用いるので各自残しておく。以下同様。発散②(個人ワーク)「格差が生じるときに関わるヒトやモノや行動や感情(構成要素)を、一つにつき1枚、付箋にできる限りたくさん書き出そう(発散)」収束(グループワーク)「書き出した付箋(構成要素)をすべて貼り出し、それぞれの要素同士でどういうつながりがあるのかを整理して、取り組んでいる問題のシステムを表す図を作ろう」※付箋で書き出した時点で、LEGO®の作品は解体して片付けてよい(写真に残してもよい)。※Google form等を使って投稿してもらい、スプレッドシートで投稿内容を全員で共有するのも良い。以下同様。※黄色の付箋(75×75mm)★ホワイトボードやJamboardを用いる。以下同様。休憩(10分)※ワーク①で作成したほかのグループの図を見学しておく。図は写真を撮影して残しておくとよい。※Googleドライブ等で写真を保存して、閲覧できるようにしておくと良い。ワーク②各国や地域で起こっている格差の要因に共通するパターンを抽出する(20分)問いの提示2「さまざまな国や地域で起こっている格差問題の要因に共通するパターンを探ろう」※書き出した付箋は後で使用するので、図からはがして各自で持っておく※グループを選択した「社会システム」ごとに組成しなおす収束(グループワーク)「発散した付箋で似ているものをカテゴライズしてみよう(パターンの抽出)」発散(個人ワーク)「共通するパターンを基に、どうすればおのおのの格差問題が解決しそうか、一つにつき1枚、付箋にできる限りたくさん書き出そう」※青色の付箋(75×75mm)ワーク③共通するパターンでは解決が難しい個別具体の要因を把握する解決策を考える(25分)問いの提示3「さまざまな国や地域で起こっている格差問題の特有の要因を把握する」※元のグループに組みなおす個人ワーク「ワーク②をふまえ、共通するパターンでは捉えきれない個別具体の要因とはなにか、グループ内で発表できるように準備しよう」発散(グループワーク)「ワーク②で整理した共通するパターンはどういうものだったか、ワーク②では捉えきれない個別具体の要因とはなにか、グループ内でシェアしよう」発散(個人ワーク)「今まで探ってきた要因をふまえ、どうすればグループで取り扱う格差問題が解決できそうか、その立場と具体的な方策を、一つにつき1枚、付箋にできる限りたくさん書き出そう」収束(グループワーク)「発散した付箋で似ているものをカテゴライズしてみよう」LEGO®※赤色の付箋(75×75mm)リフレクション・チェックアウト(15分)学びの共有「授業を受ける前と比べてどのように成長したか、みんなでシェアしよう」感情の共有「メンバー同士の気持ちを整えるために、授業を通して自分の状態や気持ちを語り、みんなでシェアしよう」小論文の課題【ホームワーク】「世界で起こっている(起こっていた)格差問題を一つ取り上げ、800字以内で以下の問いに答えよ。①経済的な格差が拡大しているのはどのようなことが原因なのか。②格差が拡大する状況に対して、誰(何)が、どのような対策を検討するべきか、あるいはするべきでないか。」『小論文のルールブック(KADOKAWA)』の輪読※神﨑氏はLEGO® SERIOUS PLAY®(レゴ®シリアスプレイ®)のトレーニングを修了した認定ファシリテーターです。築に宗教や思想や特有の価値観が影響を与えています。要素と関係性を見出すなかで「実はこういうパターンもあるのではないか」 ということが出るかもしれません。 出来事、パターン、構造、メンタル・モデルの導出は循環したり行き来したりするものです。私の小論文の授業デザインも、今回紹介する指導例のように、それを妨げないような設計をしています。 そもそも①出来事すらも理解できていないかもしれません。ですから、その貧困はどの国の、どの地域の、どの層の人々の中で起こっていることなのか、と焦点を当てる対象についてよく知ることから始めます。書籍やウェブや聞き取り調査など複数のソースに触れ、「これはどういうことか?」「どうしてそういうことになるのか?」といった疑問にぶつかりながら、さらに調べ学習を進めます。 さらに「これはほかの国や地域でも起こっていることなのか?」と②パターンを探り始めます。「もしかしたら先進国、日本の貧困にも同様のパターンが潜んでいるのではないか?」と、ほかの国や地域にも当てはめて、同じことに気づいたり、違いを見出したりします。 そのうえで、同じパターンで貧困が生じているならば、同様の③構造(システム)、④メンタル・モデルがあるはずだと推測し、構成要素とその関係を整理します。その国や地域特有の政治や経済のシステムがパターンを作り出したり、そのシステムの構492020 DEC. Vol.435

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