キャリアガイダンスVol.435
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左上から時計回りに越膳慧太さん(2015年スポーツ 探究科卒/北海道浦幌町地域おこし協力隊)、手嶋 穂さん (16年総合探究科卒/東北芸術工科大学4年)、遠藤 健先生(現・静岡県立駿河総合高校教諭)、長田結衣さん(16年総合探究科卒/静岡大学4年)  学校教育の価値は数十年経ってからでないとわからない、と言われることがあるが、本当にそれだけの年数が必要なのだろうか。今年10月、オンラインで興味深い公開座談会が開催された。同窓生3人が当時の先生を招き、高校での学びが今にどう生きているのかを語り合う会だ。企画したのは大学4年生2人と新卒社会人1人(下写真)。 3人が卒業した富士市立高校は、地域との連携を図り自律する若者を育てる「コミュニティハイスクール(C)」、夢をもち生涯にわたって学び続ける力を育てる「ドリカムハイスクール(D)」、物事の本質を追究し主体的に取り組む力を育てる「探究ハイスクール(I)」を掲げている。 同校の総合的な探究の時間「究タイム」は、探究の技法と姿勢を育てる〈序〉から始まり、学習を振り返り将来を見据えてスピーチをする〈夢〉で終わる、CDIすべてを具現化するキャリア教育だ。中核となるのは2年次の〈活〉、富士市の課題に向き合い、フィールドワークを経て解決策を提案する「市役所プラン」だ(左下図)。5つの単元を通して課題設定から振り返りまでの探究プロセスを回しながら身につくのは「社会で生き抜く力、自分の人生を切り拓く力」と社会人1年目の越えちぜん膳慧けいた太さんは説明する。 その力とは具体的にどんなもので、何によって培われたのだろうか。3人が共通項として挙げたのはまず「行動力」。主催者の1人、手てじま嶋 穂みのりさんは「市役所プランで先生や親以外の大人とも話せることを知り、地域づくりは高校生の私でもできるという自己効力感が芽生えたのだと思います。大学に入ってからはもっといろんな人に会いたくて日本を縦断しました」。同じく長おさだ田結ゆい衣さんは、究タイムを契機に市の人材育成講座に参加した。「一番大きい変化は目標をもてたこと。入れそうだからというだけで入学した私に行動力や人を受け入れる力がつき、地域に興味をもって大学でも飽きずに続けている。中学の時から生まれ変わったぐらい。きっかけをくれたのが高校です」 リアルな体験を通してできるんだ!と実感し、次はできるかも…と希望を抱くことが行動力の原点になるのだろう。「市役所プランでは提案だけでなく実行までしたかった、と何人もから言われましたが、申し訳ないけれど1学年3学科240人でそこまでやることには限界があった。手探りで学校づくりに取り組む中、長田さんのように学んだことを生かして実社会で自走してほしいという理想もありました」と語るのは座談会に登場した遠藤 健たけし先生。最初期から究タイムを創ってきた1人で、現在は他校に勤務している。「ただイベントで終わってほしくはありませんでした。高校時代に大事なのはプロセスから学ぶこと。まず高校生を地域に戻し、多様な人と何らかの関わりを作ることで1人の教員が学校で育てるより、爆発的な、予想外の成長が起きるのではないかという期待もあったんです」 プロセスから学び体験を経験に変えるのは、次の共通項として挙がった「メタ認知」の力だろう。「大学の先生に指摘されて気づいたのですが、物事を俯瞰できるのが私の強みです。振り返共通するのは行動力とメタ認知の力市立高校の学科改編によって誕生した富士市立高校は地域課題解決型学習の先駆者として注目を集め、小誌でも数回にわたり紹介をしてきました。地域での学びによって生徒はどう成長したのか、卒業生の言葉から探ります。高校は前に進む原点卒業生座談会にみる地域で学ぶ価値とは取材・文/江森真矢子富士市立高校(静岡・市立)第25回1961年創立/総合探究科・ビジネス探究科・スポーツ探究科/生徒数699人(男子333人、女子366人)/進路状況(2019年度実績)大学92人・短大18人・専修72人・就職50人582020 DEC. Vol.435

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