キャリアガイダンスVol.435_別冊
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3Vol.435 別冊特集育成にもつながっていくはずだ。 その条件を考えるうえで、「自分ごと化」と「真正の学び」が重要な示唆を含んでいると考えている。研修医の例で言えば、指導医からどう見られるかよりも、目の前の患者への治療を「自分ごと」として考えるということであり、医療現場という厳しいが豊かな現実に自分自身が向き合うことで「真正の学び」を得ることができるからだ。 先に述べた自責的思考とは、すなわち「自分ごと」にするということにほかならない。 では授業の場面では、どのように生徒・学生に「自分ごと」化させていけばいいのだろうか。 そのヒントになるのが、福岡市立福岡西陵高校の和田美千代校長が講演などで話されている「生徒のインテイクスイッチを入れる」という考えだ。 「授業をアクティブラーニング化するポイントは、インプット→インテイク→アウトプットの展開を授業のなかでつくることで、それも順番は逆向き設計です(図3)。授業の最初にまず『今日はこれこれについて発表してもらいます』とアウトプット予告します。そうすると、発表が後にあるので生徒はその問題を当事者として、情報を自分の中に入れようとします。例えば『講演の後で謝辞を言う人は講演をマジで聴く』ということですね。だから生徒をこの謝辞を言う人にあえてするのです」日本企業は、それは「主体性」であると考えている。 日本経済団体連合会が2018年に実施した調査(2017年12月8日~2018年2月8日に実施、経団連会員企業258社、地方別経済団体加盟企業185社、計443社回答)によれば、企業が学生に求める資質・能力・知識は「主体性」「実行力」「課題設定・解決能力」がトップ3を占めた(図1)。 また、経済誌での大学ランキングでも、同様の企画が行われるようになっている。例えば『日経キャリアマガジン』では、「就職ランキング」特集のなかで上場企業805社の人事担当者への調査による「企業人事担当者から見た大学イメージ調査」のランキングを発表している。そのなかで、学生に「行動力(熱意・主体性・チャレンジ精神)がある」という評価を公表している。  昭和や平成の初期まで、企業の採用では「体育会系学生」がもてはやされ、その一番の要因が「従順さ」であった時代とは、まったく異なるステージに変化しているのである(図2)。  ところで、主体性とは何か。 主体性とは、日本独自の言葉である。英語ではagencyとかindependenceが近似していると言われるが、完全に対応する英語は存在しないとも言われる。日本語でも辞書『大辞林』では「自分の意志・判断によって、みずから責任をもって行動する態度や性質」と説明されているが、これだけでは不十分な印象もある。そこには自責的思考が不可欠だという人もいる。何かある事態が発生したら、それは「自分が生み出した結果」であると考える態度のことだ。「自分のせいではない」と考える「他人(ひと)ごと」とは対極であり、拡張すれば発生への自責だけではなく、発生には関与していなくても解決するのは自分の責任だと考えるような思考も含まれていく。 しかし、このような主体性を育てるのは簡単ではない。「主体性をもちなさい」と言われてもてるようになるわけではないからだ。 新型コロナウィルス感染症に関してさまざまな場面で発言している神戸大学病院の感染症専門医である岩田健太郎医師には、『主体性は教えられるか』(筑摩選書2012年)という著書がある。そのなかで、自分が指導する研修医が、言われたことしかやらない(やれない)ため、「主体性をもって自分の頭で考えなさい」と指導すると、その研修医は混乱してしまうか、あるいは指導医である岩田医師の望むような行動をとろうとするようになった、ということが紹介されている。「主体性をもちなさい」と指導されると、指導した人の価値観に合わせて行動しようとする。果たしてそれは主体性をもったことになるのだろうか。これは思考停止であり、主体性とは最も遠い態度ではないだろうか。 こうした点を踏まえたうえで、筆者の考えでは、教育において主体性そのものを教えることはできない、ないしは困難である。しかし、主体性を身につけるきっかけを与えることはできる。そして、それは取りも直さず、主体的に学び続ける自律型学習者の出所/日経HR「日経キャリアマガジン特別編集 価値ある大学2021年版 就職力ランキング」より「行動力(熱意・主体性・チャレンジ精神)がある」評価ランキング図2順位大学名順位大学名1位北海道大学14位東京海洋大学2位広島大学15位京都大学横浜国立大学16位東京工業大学4位早稲田大学慶應義塾大学5位九州大学独協大学6位高知大学武蔵大学7位大阪大学20位岩手大学8位筑波大学21位京都女子大学名古屋大学産業能率大学10位大阪府立大学23位関西大学11位東京外国語大学24位日本女子大学12位一橋大学25位東北大学13位国士舘大学

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