キャリアガイダンスVol.435_別冊
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おいて、グループワークで「リーダーシップ」か「計画立案力」を向上させる授業計画を考え、それを最終的にはシラバスに反映して授業実践に活かしている。教員自身が課題を発見し、仮説構築し、実行しているわけである。 もうひとつ紹介しておきたいのが、同大学のコロナ禍への対策である。このコロナ禍に対して2月には前期の全授業をオンラインで実施することを決定し、3月中旬には非常勤講師を含む全教員への説明会を開いて、すべての科目のシラバスを到達目標の維持を大原則としつつ、オンラインに対応したものに改訂した。講習会やマンツーマン指導も行い、オンライン授業の質も大きく向上させていったのである。 つまり、このプロセス自体が教員が自己変革しイノベーションを起こすプロセスでもあり、そのプロセスは学生にも好影響を与えている。 そうした結果、前期の授業に対する学生による授業評価アンケートは、対面授業が行われていた例年と比較しても評価が下がることはなかったのである。教員の学び続ける姿勢こそが、学生の主体性を引き出す鍵となるのではないだろうか。 産業能率大学で人気の高い科目に「エディター養成プログラム」がある。大学における人気の高い科目の多くは、単位の取りやすい「楽勝科目」であったりする場合が多いのだが、この科目の授業時間外学習は1回の授業について5~6時間にも及ぶ。楽勝とは正反対の科目であるにもかかわらず、履修希望者は常に定員の2倍程度にも達している。その理由は何だろうか。 この科目は、40人ほどが4人のグループに分かれて、前学期をかけて1冊(48ページが基本)の雑誌を企画し、ロケハン・取材・執筆・レイアウトし、実際に製本して制作。最終14回目にプレゼンするという授業だ。 担当するのはマガジンハウス社で『クロワッサン』『BRUTUS』『Hanako』などの編集を手がけた平城好誠講師。 「学生たちはプロの編集者を目指しているわけではありませんが、0から1を生み出す面白さを感じて、夢中で取り組んでいます」という。 雑誌の種類はいろいろとあっても、その基本は同じであり、まず制作しようとする雑誌について①雑誌名を決める。②コンセプトを明確にし、さらにキャッチコピーを決める。③読者ターゲットを細かく設定する。④8月号にふさわしい特集を決める。 そのうえで、48ページの台割を、30ページの特集、10ページの定例記事、4ページの広告などと決めて文字ベースで作る。そして、取材対象を捜しに行くのがロケハン。自分たちで編集者視点になって、「絵になりそうか」「面白い話が聞けそうか」などを基準にして探すが、SNSや知っていそうな人に尋ねたりして、ネットワークを活用することも推奨する。 ロケハン・取材が終了し素材が集まったら、今度は紙に各ページのラフデザインを描いてみる。そこで、読みやすくリズムのある構成になっているかを検討し、レイアウト作業に進んでいくのである。 このプロセスで、平城講師はプロの視点から取材の依頼の仕方などのさまざまなノウハウも教えている。なかには「撮影には白い布を持って行くと、料理や小物撮影の際に下に敷くときれいだし、レフ板の代わりになる」といったものもあり、学生はちょっとした工夫で人への伝わり方が異なっていくことを、身をもって経験するのだ。 このプロセスのほとんどが授業時間外に行われているのである。にもかかわらず、すべての学生が熱中して取り組む。 「自分の思い込みだけでは伝わらないし、伝わらなければ情報ではありません。それを形にする面白さが、学生の主体性を引き出していると思います」 学生からは、「やりきってよかった」「チームで作る面白さを体感した」「自分の足で探す体験の大切さを知った」などの感想が寄せられている。本物の第一線の編集者である平城講師の指導を受けながら、実際に自分たちで発案・企画・取材・制作を行っていくプロセスのなかで、学生たちはものを創る楽しさを感じ、「伝えたい」という思いが高まり、学生の主体性が発揮されて、それが彼らの成長につながっているのだ。 ところで、この科目も今年はZoomによるオンライン授業に切り替えられた。リアルなロケハンや取材は不可能になったが、ネットを駆使して情報収集を行った。一次情報を自分たちの周辺から集めるという制約がなくなったぶん、海外の情報を取り込んだりして「アフターコロナで行きたい海外旅行特集」などのユニークな企画が案出され、レイアウトを工夫したりするなどして、例年に劣らない質の高い雑誌ができあがったのである。 学生たちが雑誌づくりを「自分ごと」としてとらえ、現実と向き合って本物の体験を重ねていくことで成長していく。 こんな授業が学生を主体的・自律的学習者へと育んでいくのである。元マガジンハウスの雑誌編集のプロ平城好誠講師学生たちが制作した雑誌6Vol.435 別冊特集

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