キャリアガイダンスVol.436
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ランダムに行い仲良しでかたまらないようにしている。知らない生徒とも協働できる力を養うためだ。  フィールドワークによって集めた情報を整理分析して企画書を作成し、全校生徒、市の職員、教育委員会、地域の方々も見守るなか、体育館の檀上に立って発表を行う。「得意な生徒だけでなく苦手な生徒にこそ発表させる。最初は原稿を見ながら話していた生徒も、最後には原稿なしで堂々と発表ができるようになります」と久常先生。しかしゴールはそこではない。 「例えば町おこしイベントを提案したらそこで終わりではなく、スケジュールを決め、予算を立て、地域の人と協働して実行するまでを生徒たちに求めます。思い通りに進まず、計画変更せざるを得ないこともある。それらを乗り越えることで、初めて自分ごとになるし、実現できたという経験は大きな自信になる」 「行学」には、教員が日頃から地域の人との人間関係を築いておくことが不可欠だ。久常先生は市役所、商工会、公民館等にも足を運び、ネットワークを培ってきた。そして、地域コーディネーターの協力も欠かせない。 「地域コーディネーターが関わることで、外の視点が加わり、地域人脈も格段に広がる。また、教員は異動があるが、『行学』の全体像や経緯を知る地域コーディネーターがいることで、持続可能な取組にすることができる」と久常先生は期待を寄せる。 証券会社を退職し、現在は地元岡山で地域活性化に取り組む地域コーディネーターの三宅康太さんは、生徒と年齢が近いこともあり、よき相談役になっている。「教師とは違った視点を示すことが自分の役割。生徒が行き詰まったときは『何が問題だろう?』『どうしたらいいと思う?』と声掛けはしても答えを与えることはしない。悩んだり失敗を経験して乗り越えた経験が多いほど生徒たちは成長するからです」 1年生から3年生まで、「行学」に取り組む生徒の姿を見てきた射いば場麻梨沙先生は、「最初は、フィールドワークを『面倒だ』ととらえる生徒も多い。しかし、学校の外に出て地域の人たちと活動をし、自分の意見を大人が真剣に聞いてくれる、自分の提案が形になるという経験をすると、変わり始める。特に大きな変化は、自分の意見を言うようになったこと。現状分析・課題の設定・解決策と、論理的に組み立てて話すことができるようになり、大人数の前で発表するときにも動じなくなりました」 進路選びにも変化が表れている。「主体的に進路を選ぶようになった。地元に残って地域活性化に尽力したい、大学進学で外に出ても将来は学んだことを地元で活かしたいという生徒も増えています」(射場先生) 「今年はコロナの影響で予定変更も相次ぎましたが、生徒たちは自分でできることを考えて行動しています。『行学』をきっかけに、自走する生徒が増えていくことが理想」と久常先生。生徒の変化は、教師にも元気を与えている。論理的に話す力が向上進路選びも主体的に「行学」のフィールドワークに参加する生徒たち。現地に出向き、住民から地域の魅力や課題を直接聞く図1 「行学」のサイクルと、身につけさせたい力1年次は学校内でのリサーチや企画づくりが中心。2年次には地域にフィールドワークに出かけ、地域と協働して企画を実行・運営する。消極的だった生徒も外に出ることで自走し始める津山の観光を盛り上げるために、ぼろぼろの看板をリニューアルする「看板革命」を津山市に提案しました。以前は大人相手に自分から意見を言うなど考えられませんでしたが、「行学」によって意見を言って話を進めていく力がすごくついたと思います。最初は「計画倒れになるのでは?」と半信半疑でしたが、実際に形になり、自分もやる気になれば何かできるんだと自信になりました。 (2年生・安樂萌もえ愛さん)プレーパークというイベントを実行。最初は「高校生にできるわけがない」と思っていましたが、地域の人たちと何度も話し合い、役割分担をして進めていくうちに、少しずつゴールが見えてきて、「できるかも」という気持ちに。苦労しましたが、終わったあとの達成感が大きかったです。人に流されるタイプでしたが自分の意見も言えるようになりました。この経験は将来もきっと役に立つと思います。 (2年生・岩崎妃ひまり真里さん) 奇抜なアイデアで観光客を集客しようと、きゅうりジェラートを作りましたがあまり売れませんでした。季節が冬だったこと、皮ごとミキサーにかけたから青臭かったことなど、失敗の原因を導き、失敗してもそこからどう立て直すかが重要だと学びました。最初は「行学」のことを「面倒」と思っていましたが、主体的に動くことで「面白い」に変わりました。「行学」でアイデアが形になる楽しさを知りました。 (3年生・渡邊清さやか香さん)生徒インタビュー自分でもやればできるんだと実感人に流されるタイプから意見を言い実行できる自分に失敗の原因を考え立て直すことの大切さを学んだ●コミュニケーション力●深く考える力●さまざまな視点から考える力●協働する力●実践する力●課題発見解決力(修正再提案も含む)●論理的に考える力●発信する力(プレゼン力)●変化に対応する力生徒に身につけさせたい力•まなびプロジェクト•SIM津山プロジェクト•発信力プロジェクト1年次•地域プロジェクト•社会・世の中プロジェクト2年次•総合探究プロジェクト3年次整理・分析提案作成発表・実践情報収集課題発見行学のサイクル「まじめで素直でおとなしい」生徒の可能性をどう拓く?“生徒の可能性を拓く” 高校実践事例152021 FEB. Vol.436

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