キャリアガイダンスVol.436
18/66

 キャプテンや種目ごとのリーダーを中心に、ほかのメンバーの意見を取り入れながら何をするかを決め、実践する。動画でフォームを撮影し、フィードバックをし合いながら改善する。相談を受けた岩井先生が提案をすることもあるが、それを採用するかどうかは生徒たちが判断する。生徒たちは協力しながら自走するようになり、同好会のような緩い空気も次第に引き締まっていった。 部の雰囲気には変化が見られたが、当初は生徒たちの不安が岩井先生にも伝わってきた。「練習が結果につながったという成功体験がなく、生徒は自分で決めたやり方でいいんだろうかと疑心暗鬼になっていた」と振り返る。そこで、陸上競技部のOBをコーチに招聘。専門的な理論を吸収して修正するうちに自分たちのやり方を肯定できるようになり、競技面でも結果を出す生徒が増えていった。 「自信は、結果が出てこそつくもの。自信がもてない生徒たちになんとか成功体験をさせてあげたいという思いがあり、こちらから仕掛けにいったところ、生徒がうまく乗ってくれた…という感じです。こうした誘導がいつも功を奏すわけではないですが、こうなればいいなという状態に向けて生徒を自然と導くよう仕掛けることは、常に意識しています」 伝統的に受け継がれてきた自主自立の校風の下、文武両道を実践する生徒が多い春日井高校。授業のみならず部活動や学校行事においても「思考力・判断力・表現力」の育成を軸に据え、確かな学力と高い志を育てることを教育方針としている。部活動も学校行事も盛んで、「生徒の主体的な活動を促し、委ね、見守る指導は、教員の間に共通認識として浸透している」と足立 敏教頭は言う。進路指導も生徒の意思を最優先し、3年生が最終的な進路を選択する際には教員はサポート役に徹し、生徒は主体的に自らの道を選んでいく。 一方、「入学時点では、まだ自主性が芽生えていない生徒が少なくない」と、陸上競技部顧問の岩井万まさと里先生は感じている。 「先生の話をしっかり聞いて、まじめで素直…という子たちが多く、私たちの指示を聞くことはできるし言ったことはできるのですが、じゃあ自分で動いてみようと言うと、なかなか動けない。高校3年間で、自分で考えて判断・行動する力をつけるため、授業や部活動、学校行事などさまざまなシーンを通して生徒のスイッチが入る機会をつくるよう努めています」(岩井先生) 岩井先生が陸上競技部の顧問に着任したのは4年前。かつてはインターハイにも出場するような強豪校だったが、着任当時は「同好会のような状態だった」と振り返る。 「スポーツに打ち込む高校生の集団として、これはあるべき姿ではない、変えなくてはと思いました。とはいえ、顧問である私がああしろこうしろと指示をして生徒はそれに従うだけ…というやり方では、根本的には変わりませんし、自分で考えて行動できる生徒を育てることにはなりません。私自身、陸上経験がないこともあり、生徒主体でやった方がお互いにとって良いと考え、練習のスケジュールもメニューも自分たちで組ませてみることにしました」取材・文/笹原風花高い志をもち、自ら考え判断・行動できる生徒生徒に委ねて自走を促し、成功体験を仕掛ける写真右から、足立 敏教頭、陸上競技部顧問で公民科教諭の岩井万里先生1963年設立/普通科/生徒数948人(男子488人・女子460人)。2020年度に「あいちSTEMハイスクール」研究指定校に選定され、中部大学との連携を進めている。学校データ春日井高校 (愛知・県立)自分で決める。結果を出す。自信をつける。生徒を乗せる〝仕掛け〞で好循環を生み出す大会や練習時にはスマホで互いのフォームを撮影。撮った動画はGoogle Classroomで共有し、多角的な視点でフィードバックをし合いながら動作改善につなげている。182021 FEB. Vol.436

元のページ  ../index.html#18

このブックを見る