結果が出たことで自信や自己効力感が生まれ、生徒の自走はさらに加速していった。そして、昨年度は4×400メートルリレーで県大会に出場。久々の快挙に部は沸いた。「リレーというチーム力の試される種目で県大会に行けたということが大きな自信になり、スイッチが入った」と、岩井先生は振り返る。「リレーメンバーだけでなく他の部員も、自分もがんばれば(県大会に)いけるんじゃないかと思ったようで、部全体の雰囲気が変わりました。みんなでやってやろうという感じで、目の色が変わりましたね。このチームは強くなる。そんな予感がしました」 自らスケジュールやメニューを考えることから少しずつ自走を始め、競技で結果が出るという成功体験が自信につながり、さらなる意欲が生まれ、周囲にまで波及する。岩井先生の「仕掛け」により好循環が生まれている陸上競技部だが、その過程で「生徒一人ひとりに自ら考え行動する力がついている」と岩井先生は言う。 「言われたこと・教わったことはできるという状態から、やれと言われなくても目標・目的を設定して、教わったことを自分たちで再現できる、というところまでは確実に来ていると感じます。実はこれって、高校生にとって簡単なことではないと思うんです。自発的に動き考えないと、ゼロからの再現はできませんから。また、言われたことに対して、自分で考えて、言われたこと以上のことができるようにもなってきています。先日、練習の合間の時間に筋トレなどができるんじゃないかと指摘したところ、自分たちで考えて時間を有効活用する工夫をするようになったんです。その工夫がこちらの想定を大きく超えていて、成長したなあと感心しました」 生徒の自主性は、陸上部に限らず校内外のさまざまな活動を通して芽生えている。今年度、コロナ禍のなか、春日井高校では学校祭も体育祭も実施した。「生徒がやりたいということだったので、世の中の要請やクリアすべき条件を伝えたうえで、生徒に委ねた。生徒会や実行委員が中心になって、さまざまな課題や障壁があるなかみんな成功体験が自己効力感につながり、自走が加速する具体的な練習メニューについては、跳躍、投てき、短距離などのブロックごとにミーティングを行い決めていく。リーダーを中心にメンバーみんなが意見を出して話し合うため、冬場の走り込みなどのきつい練習でも“やらされ感”はないという。個人用ノート(左)とパート別の練習計画・ミーティング資料(右)。個人用ノートには、「練習メニュー」「記録・メモ」に加え「振り返り」の欄があり、できたこと・できなかったことやその理由、次に向けての改善点などが細かく書かれている。が楽しめるよう工夫を凝らし、当日の運営までやり遂げてくれた」と足立教頭は感心する。 「生徒に委ねるというのは、無条件になんでもやっていいよという放任とは違います。生徒がどういう状態にあるのかを教員が常に把握し、それを教員集団で共有し、何かあったときに支えられる体制を作っておくことが大事だと考えています。委ねた結果、失敗するかもしれませんが、失敗したらそこから学び、次に活かせばいいのです。大事なのは、教員自身が失敗を恐れず、生徒に任せてみること。失敗もあり得るという覚悟をすること。やらせてみないことには、成功体験は得られません。最初は小さなこと、生徒ができそうなことから任せてみるといいのではないでしょうか」(足立教頭)中学時代も陸上部に所属していましたが、当時は顧問の先生が言うとおりにやるだけで、先生がいない日は何をしていいかわからず、何もできませんでした。今は、弱点を強化するメニューなど自分に何が必要かを考えながら取り組んでいるので、最適だと思える練習ができていると感じます。自分で決めるので、納得感もやりがいも大きいです。部活以外のシーンでも、自分の頭で考える習慣がつきました。 (2年生・鈴村州平さん)中学時代は野球部だったのですが、厳しい顧問の先生に従うのみで自分で考える余地はなく、いつも受け身でした。今は、より良くするにはどうしたらいいかと自問自答しながらやることで部活が楽しくなり、結果も出せています。また、テスト前などには、親や先生に言われなくても自分から計画を立てて勉強するようになり、陸上部に入って人間的にも成長できたと感じています。 (2年生・山田悠斗さん)生徒インタビュー自分で決めるから、納得感もやりがいも大きい自分で考えて取り組むことで、部活が楽しく充実したものに「まじめで素直でおとなしい」生徒の可能性をどう拓く?“生徒の可能性を拓く” 高校実践事例192021 FEB. Vol.436
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