キャリアガイダンスVol.436
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 戦後、日本はアメリカの自動車産業や電気・電子産業をお手本に、製造業を中心とした工場モデルによって復興を遂げてきました。そうしたモデルにおいては、物事をあまり深くは考えず、黙々と長時間労働をこなすことが奨励されました。つまり以下の5要素を備えた〝優等生〞が求められてきたのです。①学校の成績がいい。偏差値が高い②素直である③我慢強い④協調性が高い⑤目上に従う。先生のいうことを聞く この傾向は今も続いています。企業の人事担当者とこの話をすると、半数は「ええやつやないですか」と返されます。確かに従順で、よく働きますから上司にとっては都合がいいかもしれません。けれど、ここからスティーブ・ジョブズのような尖った人材が生まれるでしょうか? もちろん勤勉さや素直さが持ち味の人もいますし、5要素を必要とする職場もあるため、全否定するつもりはありません。しかし、今や日本における製造業の割合はGDPの2割ほど。経済の枠組みが様変わりし、GAFA(Google,Apple,Facebook,Amazon)やユニコーン企業(※)に象徴される、アイデアひとつで社会を変える産業をつくる必要があるのに、未だに教育の現場では、工場モデルに過剰適応した画一的な若者を再生産しようとしているのです。 考えてみてください。「素直」とは、物事を疑わないということ。それでどうして問いを立てる力や探究力が身につくでしょうか。「我慢強い」とは、理不尽なことでも従いかねないということ。ブラック企業がはびこる理由です。「協調性」とは、空気を読み、自分の意見を口にしないこと。「目上のいうことを聞く」に至っては、上意下達の軍隊的な思考の名残です。 では、この5要素を反対にして考えてみたらどうでしょう。①学校の成績を上げることよりも、自分の好きなことに夢中になる②常識や、大人のいうことを疑う③我慢せずに、やりたいことをやる④周囲に忖度せず、自分の道を進む⑤目上の人に対しても、おかしいと思ったことは、おかしいと口にする 人によっては問題児に見えるかもしれませんが、僕には、芯のある頼もしい若者に映ります。少なくとも、イノ工場モデル主導の5要素教育では、未来を切り拓く若者は育たない世界に変化をもたらすのは物おじせず意見を述べ、行動に移す尖った若者保険業界にイノベーションを起こしたライフネット生命の創業者として知られ、2018年からは立命館アジア太平洋大学(APU)の学長を務める出口治明氏にこれからの社会をつくる若者に何が求められるのか伺いました。立命館アジア太平洋大学(APU) 学長 出口治明取材・文/堀水潤一社会、大学、高校現場からのメッセージ①222021 FEB. Vol.436

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