キャリアガイダンスVol.436
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 いわゆる「まじめで素直でおとなしい生徒」が多いというのは、日本の教育が「最適化」を目的にしてきた結果だと思います。では、何に対して最適化してきたのか。「学校や教師にとって都合が良い生徒像」に最適化してきた、つまり、「先生に言われた通りにきちんとやって、余計なことは言わず問題を起こさない生徒」を育ててきたのです。教育には「こうあるべき」が蔓延しています。そして、「こうあるべき」を植え付けると、人はそれに自分を最適化しようとします。その結果、先生の、監督の、上司の、先輩の、顔色ばかり伺うようになってしまうのです。理不尽な状況にも我慢して耐え抜くことができる人材を育成するという教育は、バブル期まではともかく、多様で変化の激しい今の時代にはそぐわない。教育の方針が時代や社会の要請とズレているのです。 本校では、「こうあるべき」は禁止です。私は意見のぶつけ合いこそが変革の原動力だと思っているので、生徒にも先生にもなんでも言いに来てくださいと言っています。余計なことを言う生徒も先生にとって都合の悪い生徒も大歓迎です。学校は生徒のためにあるものですから、生徒が先生の言いなりになるなんておかしいのです。大事なのは、生徒がオーナーシップ、つまり当事者意識をもって学校づくりに携わること。学校をつくる、学校を変えるのは自分たちだという意識がもてない限り、誰かがやるんだろうと受け身になってしまうのです。 本校も、入学時には自己肯定感が低く、控えめな生徒が少なくありません。そういう生徒にオーナーシップを身につけてもらうために、いろんな仕掛けをしています。何よりも大事なのが、マインドセットです。自分は何者なのか、何がやりたいのか、何のために学ぶのかといった自己理解やパーパス、フィロソフィーが明確になっていないと、能動的な学びやアクションは起こりません。誰かにとって都合の良い素直さと、自分に対する素直さというのは、まったく違います。自分の強み・弱みや自分がやりたいことに対して素直だというのは、とても大事な要素なのです。 最初は「少しずつ散発的に」がカギです。例えば、一部の授業や課外プログラムにマインドセットのフレームワークを取り入れるなど、きっかけを与えます。すると、感度の高い生徒は反応し、モチベーションのスイッチが入ります。マインドセットにより自分を肯定できるよ小さくついた火が連鎖して、大きなうねりを引き起こす学校は誰のもの? 主権を握るのは先生ではなく生徒たち「こうあるべき」を手放し、生徒に委ね、生徒が主役の学校をつくっていこう武蔵野大学中学校・高校/武蔵野大学附属千代田高等学院 校長 日野田直彦社会、大学、高校現場からのメッセージ③学校は生徒のものである。前任校時代からそう訴え続け、学校改革を進めてきた日野田校長。華々しい実績の背景には、自ら人生の舵取りを始めた多くの生徒の存在がありました。いかにして生徒の心に火をつけてきたのか、「地道」だと言う自校での実践を交えて語っていただきました。262021 FEB. Vol.436

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