312021 FEB. Vol.436誌上 進路指導ケーススタディ 「怒り」の情動を コントロールするには進路指導をしていると、生徒や保護者、教員同士の関わりのなかで、さまざまな「怒り」の感情を抱くことがあるのではないでしょうか。怒りは創造のエネルギーになる一方で、円滑なコミュニケーションを阻害することもあります。そこで今回は、進路指導のコミュニケーションを向上するための「アンガーマネジメント」をご紹介します。取材・文/清水由佳 イラスト/おおさわゆう※『アンガーマネジメント入門』安藤俊介著・朝日文庫より抜粋こんなケース1進路を真剣に考えない生徒にイライラ2保護者からの一方的なクレームにムカッ3会議でいつも反対ばかりの先生にカチン第18回かりまざわ・はやと●1986年岩手大学工学部卒業後、岩手県の公立高校教諭に。早稲田大学大学院教育学研究科後期博士課程単位修得退学。教育学、教育カウンセリング心理学を専門とする。2015年4月より現職。会津大学 文化研究センター教授 苅間澤勇人先生 【監修&アドバイス】あまりにも頻繁に、強烈に、長い時間、発生し続ける場合だけだ」と説くように、怒りの感情そのものが悪いのではなく、怒りに振り回され、適切な人間関係の構築に悪影響を及ぼすことが問題視されます。そこで、アンガーマネジメントでは、「怒り」の情動を上手くコントロールし、適切な問題解決やコミュニケーションにつなげるためのプログラムが数多く実践されています。 そもそも「怒り」は、出来事そのものではなく、その出来事をどのように意味づけ、捉えたかという二次的な感情です。例えば、友人が待ち合わせに遅れてきた際、「時間は絶対守るべきだ」と考える人は「非常識だ」と怒りますが、「忙しいなか駆けつけてくれた」と思う人は怒りません。このような物事の捉え方は人によって異なるため、時にはそれが「怒り」となり、コミュニケーションの障害につながります。アンガーマネジメントでは、このような「認識」の修正と、怒りのままに行動しないという「行動」の修正を行います。 代表的な手法としては、「衝動のコントロール」「思考のコントロール」「行動のコントロール」の3種類が挙げられます。 「衝動のコントロール」は、怒りの感情のピークである最初の6秒をやり過ごすための手法で、代表的なものは、数を数えて深呼吸するとか、その場を離れる(タイムアウト)などがあります。 「思考のコントロール」は、怒りの源に アンガーマネジメントは、「怒り」を予防し制御するための心理療法プログラムで、1970年代にアメリカで始まったと言われています。当初は、DVや軽犯罪者の矯正プログラムとして作成されましたが、現在は、企業研修や教育現場でのスキルトレーニングなど、広く一般に行われています。 心理学者のレイモンド・W・ノヴァコが、「怒りは誰もが経験する感情だ。怒りが重大な懸念事項となるのは、それがもなる自分と他者との認識のギャップを知りコントロールする方法です。怒りを感じたときの場面を記録し、前述の「こうあるべき」という自分の思考の癖や怒りの引き金になるものを認識し、許容範囲を広げて考えてみます。 「行動のコントロール」は、怒りにつながりやすい自分のストレスを、自分で変えられること・変えられないこと、重要なこと・重要でないことに分けて書き出し、どのような態度を取ればいいのかを理解し、怒りにくい仕組みを身につけていく手法です(図参照)。書き出すことで、自分で変えられることはどう変えていけばいいかを考えられますし、変えられないことは「受け入れる」ことで解消していこうと理解できます。 さまざまな個性をもち、進路の悩みや不安を抱いている生徒に向き合うには、教員が心理的に安定していることが非常に大事です。だからこそ、アンガーマネジメントによって、教員が自分の「怒り」を理解し、上手にコントロールして対応することが大切になるといえるでしょう。図 自分のストレスを整理する【ストレスログ】進路指導に役立つ技法●アンガーマネジメント技法を活かす自分で変えられる優先順位は高くないが、変えられるのであれば、自分の責任で変えていく。考えても仕方がないこと、人生の本筋には関係ないことなので、なるべく考えることをやめる。自分の責任で自ら変えていく。責任をもって変えていくことで、ストレスから開放される。現実を受け入れる。何でも自分の思う通りにいくわけではない、そういうものがあると受け入れる。重要でない重要自分で変えられない
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