キャリアガイダンスVol.436
43/66

 高卒就職者が大卒就職者に比べて早期離職率が高いことは長らく問題視されてきていた。この状況がいったいどのような理由で起こっているのか、本稿では高卒就職者特有の就職プロセスを詳細に点検し、その後のキャリアの実態を明らかにすることを試みた。さらに、この問題を複眼的な視点で捉えるために、高卒当事者のみならず、高卒就職者を抱える高校・高卒就職者を受け入れる企業の3者に対する調査を行った。 ここでは、調査結果から明らかになった、就職プロセスにおける課題、長期のキャリア形成に関する課題について総括し、高校の支援のあり方についての考察を加える。 本調査からは、9人に1人が最初の会社を半年以内に辞める超早期離職であることが明らかになった。さらに詳しく見ていくと、20代後半では離職経験者が6割に上っていることも明らかになっている。この数字が問題なのは、超早期離職者のその後の非正規率や無業率が高いことである。 ではどうすればこのような超早期離職を防ぐことができるのだろうか。調査結果から明らかになった第1の方法は、入社前の情報収集が「十分である」と思えることだ。「実際の仕事内容についての情報」、「労働環境についての情報」、「入社後の育成・研修についての情報」、「応募できる企業の数」について、「十分だった」と考えているほど、半年以内の離職率は改善される。 第2には、入社前と入社後のイメージギャップを減らすことだ。イメージギャップを減らすための方法として有効なのは、インターンシップや職場見学の社数を1社ではなく、2~3社にすることであった。既にいくつかの高校では、早期離職を防止するため、応募企業を決定する前の段階で複数のインターンシップに参加することを必須としている。 ある高校では2年生で2回それぞれ2日間のインターンシップに参加する。それでもまだ迷う場合は3回目のインターンシップに行かせている。その際、4つの分野に分けた企業のうち2つの分野で異なる職場を体験させている。2年生の段階ではまだ希望を絞ることが難しいため、同じ業界で違う職種、同じ職種で違う企業というように、本人の希望も聞きながら体験先は先生が振り分ける。この時、複数社を比較検討することで自分が選んだ実感をもつことを重視しているそうだ。 大学生のように10数社を見ていては、学業への影響は避けられない。しかし、2~3社ならどうか。インタビューでは「行かない可能性がある企業に職場体験の受け入れを依頼するのが申し訳なく感じる」という先生からのコメントも得ているが、入社後に育成途中で離職されるより、入社前に比較検討して「情報が十分得られた」状態であることのほうが企業にとってはメリットが大きい。 また、半年以内の離職を防ぐだけでなく、離職後のキャリアプランに備えた教育も必要だろう。離職後にどのように次の職を見つけるのか、公的機関の相談窓口についても在学中に知らせておきたいものだ。 調査結果からは、高校卒業後に就職を選んだ生徒のうち、44.7%は早期自立や成長のためであることが示されているにもかかわらず、半数の若者が入社直後の研修やOJTの機会がなかったと回答している。成長を求めて入社した彼らのやる気を低下させないよう、企業側も入社初期の育成機会を見直す必要があるだろう。 1990年代までは、個人のキャリア形成は組織の中で行われることを前提としていた。しかし、2000年代以降は、キャリア自律という言葉に象徴されるように個人のキャリアは個人が主体的につくることが強調されている。今回の調査からは、高校の教育活動はもちろんのこと、就職活動のあり方も個人の長期にわたるキャリア形成に影響していることが明らかになった。 分析の結果からは、自分のキャリアを主体的につくることに影響しているのは、就職を選んだ理由を明確にもつこと、高校3年時の成績、条件でなくやりがいや成長という入社動機、高校時代に働くことに対するポジティブな学びを得た経験があること、就職活動における自己決定感であった。 誌面の都合上、詳細は割愛するが、高校での授業を通して「働くことに対してポジティブなイメージをもった」と考えている当事者は22.6%にとどまっている。キャリア教育や就職指導を通じて、生徒らが働くことをどのように捉えるのか、どのように「自分で選んで決めた」実感をもたせるのか、ということが改めて問われた結果であるともいえよう。「自分で」「選んで」「決めた」ことが、短期・長期のキャリア形成に影響する高卒当事者、高校、企業という3者への調査結果から明らかになったのは、高校での授業を通して働くことに対するポジティブなイメージをもつことと、生徒自身が選んだ実感を伴って進路決定することの大切さだった。高卒就職の現状と課題、展望を考察する。リクルートワークス研究所労働政策、労働市場、組織人事、個人のキャリア、キャリア教育、人材ビジネスに関する研究、情報発信を行っている。本調査の関連情報は以下のサイトで閲覧可能。https://www.works-i.com/project/koukousotsu.html辰巳哲子リクルートワークス研究所主任研究員どうすれば高校生は「自分で選んで決めた」実感をもって働き始められるのか特別企画432021 FEB. Vol.436

元のページ  ../index.html#43

このブックを見る