キャリアガイダンスVol.436
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482021 FEB. Vol.436 海を見晴らす高台に立つ熱海高校。熱海市で唯一の高校として、これからの地域を担う人材の育成が期待されている学校だ。普通科の中に「福祉」「観光ビジネス」「進学」の3コースを設置し、2年次からコース別カリキュラムを展開。約半数が卒業後にすぐ仕事に就き、福祉や商業を学んだ経験を活かして就職する者も多い。 地域の少子高齢化に伴い学校規模は縮小傾向にあるが、「規模の小ささを活かして丁寧な指導を行っている、温かみのある学校」と石田金也校長。生徒の特徴についてはこう話す。 「近隣の小中学校も小規模校が多いなか、競争の少ない環境でのんびり育ってきた素朴で素直な生徒たちです。一方、自信につながるような成功体験やリーダー経験をあまりもてなかった生徒も多く、いかに自己肯定感を高め、主体的な行動を引き出していくかが最大の課題だと感じています」 そんな実態を踏まえて、同校は現在、地域が抱える課題の解決に自ら取り組んでいくことのできる生徒の育成を目指し、自己肯定感を重視した、地域との協働による学びの推進に全校体制で取り組んでいる。「生徒は人から『違うよ』などと否定されるのが怖くて尻込みしがち。地域の大人の多様な考え方や価値観に触れることで、怖がらずに自分なりの意見を言えるようになってほしい」と3学年主任・平沢圭子先生。「自分は社会にとって必要な人間なのだと感じられる経験をすることで、自信をもって社会に出ていってほしい」と進路指導主事・永井幸子先生。多くの教員が、同校生徒の育成に地域の関わりの必要性を感じているという。 観光ビジネスコースの商業科目では、2011年度に地元企業と共に地元の食材を使ったチップスの商品開発に取り組んだことを機に、饅頭やゼリーなどの商品開発、その販売促進策の検討や販売などにも拡大して地域連携による学びを推進してきた。取り組んだ生徒は「お客様に感謝されたことが嬉しかった」「『すごいね、がんばれ』など言ってくれ、笑ってくれた」「みんなで協力できたことが嬉しい」といった前向きな感想をあげている。 そんな地域で学ぶ機会が全コースに広がったのは、17年度、総合的な学習の時間を活用した地域課題について調べるプログラムの立ち上げが始まりだ。翌18年度からは外部コーディネーターの参加により、地域におけるフィールドワークを導入したプログラムに改良した。 さらに、こうした探究的な学びを、総合的な学習(探究)の時間だけでなくカリキュラム全体で推進していこうと、文部科学省の「地域との協働による高等学校教育改革推進事業」に手を挙げた。地域で活躍できる人材に必要な資質・能力について、同校の教育方針を踏まえて「探究力・主体性・協調性」と設定(図1)。その育成のため、19年生徒の自己肯定感を基盤とした探究力・主体性・協調性の育成を目指して地域との協働による課題探究を推進し、資質・能力の評価開発にも取り組んできた熱海高校。教科横断授業への挑戦も始まり、新しいカリキュラム作りに向けて進化を続けています。取材・文/藤崎雅子総合的な探究の時間 地域との協働 資質・能力の評価開発 教科横断授業シラバスの工夫 新教育課程の開発自己肯定感の基盤のうえに地域に貢献できる人材を育成総合的な探究の時間からカリキュラム全体へ

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