校舎から見た、火災直後の首里城。現地に行くと、炭のかけらが落ちていた。VRによるガイドは、自前のスマートフォンをレンズにセットして覗くことで、ありし日の姿を見ることができる。首里城正殿内をガイドする生徒。先輩と組んで実地で学ぶ。交流先から礼状が届くこともしばしば。火災後、マスコミの取材を機に、生徒たちは自分たちにとってのガイド活動を振り返った。県外からの高校生に対し、学校内でスライドによるガイドも試行した。げ、修学旅行生を見送った後、部員たちは首里城に向かった。「本当に燃えてしまったんだな…って。いろんな衝撃を受けました。でも、これから新しいものを私たちが作っていかなければいけない、という思いも強くしました」大蔵さんはそう振り返る。 その後も数校を学校に迎え入れてガイドを続けたが、次第に、部員たちは「何か違う」と感じるようになった。臨場感がない、一緒に歩きながらのお喋りがない。そんな状況を打開したのは、バーチャルリアリティ(VR)によるガイドという新しい方法だった。協力してくれたのは東京工業大学の川上 玲特任准教授。世界中に呼びかけて集めた写真を使い、3D画像を合成する「みんなの首里城デジタル復元プロジェクト」の中心人物だ。画像はスマートフォンをセットしたゴーグルを通して見ることができる。これを持って、首里城正殿前で再びガイドができるようになったのだ。 「私たちが大切にしていたのは知識を伝えることじゃなくて、交流することだったんです。ガイドをしながら毎回、連絡先を交換して、県外や国外に友達ができました。火災の後もインスタやLINEでたくさんのメッセージをもらいました。火災で状況が変わって、挑戦してきたことをみんなで振り返った時に気づいたことです」(大蔵さん) VRを使った新しいガイドも、昨年来のコロナ禍で修学旅行の中止が相次ぎ、今は出番がない。しかし、想定外に対応する力をつけた生徒たちは、こんな時だからこそ県外だけでなく県内にも首里城の魅力を伝えたい、とSNSによる情報発信を始めている。 「修学旅行生だけでなく、沖縄の人たちにも思いを伝えることができるようになった」「高校生の私たちでもここまでできた。後輩たちにも、やりたい!と思ったことにはチャレンジして、と伝えたい」と二人は言う。これまで、興南アクト部は30校、4000人を超える中高生と交流をしてきた。部室の壁にはお礼のメッセージ、ガイドに代わり基地や平和について議論した際の模造紙などが所狭しと貼られている。部員たちが得たものは大きいが、与えてきたものも大きいのだろう。 門林先生自身、修学旅行で沖縄を訪れたことがきっかけとなり、大学では沖縄研究者に師事した。「歴史、自然、文化。沖縄は教材として豊かですし、子どもたちへの関心が高くて、協力してくれる大人が多い、恵まれた環境にあります」。ガイド活動を始めた時には、県外生との交流によって沖縄の良さに気づき、自信をもってほしいという願いもあった。「部活をやっている一番の目的は、閉じられた世界で自分の役割を決めてしまうのではなく、ゆさぶられて新しい自分に出会ってほしいということ。外に出て行動する〝外向き文化系〞だからアクト部なんです。今では先輩が後輩を指導する体制もでき、僕がいなくても前に進める部になりました」。 生徒は、沖縄と自分たちの未来をどう考えるようになったのだろうか。大蔵さんは「自分たちの問題に目を背けず、行動し、変化を起こすべき」、一方、仲村さんは「沖縄が抱える問題は複雑で、内地と違う歴史や文化が魅力。今の沖縄であり続けてほしい」と対照的だ。しかし、今春、県外の大学に進学する二人に共通するのは「一度外に出て客観的に沖縄を見つめたい。帰ってきて、自分たちが沖縄にできることを考えたい」という思いだ。外に出て行動して新しい自分に出会って552021 FEB. Vol.436
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