キャリアガイダンスVol.436
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 堀尾先生の英語学習の原点は、中学生のときに始めた海外の人との「文通」だ。雑誌に載っていた「海外に友達をつくろう」という通信講座の広告に目をとめ、興味をもって開始。欧米からアジアまでさまざまな国の人と、趣味や将来の夢を英文でやり取りした。すると英語の成績も伸びて、中学3年生になる頃には学年トップ3に入るほどになったという。 「よく覚えているのは、文通相手の手紙の文の途中にwhichやwhatが急に出てきて、何だろうと思っていたら、次の日に学校で関係代名詞を習ったことです。『これか!』と思って、自分の返事にも関係代名詞を面白がって使いました」 つまり堀尾先生は、初めから「人とコミュニケーションを取る」ことを目的として、英語を学んでいったのだ。 英語を通して、異なる考えにふれることもできた。例えば、文通をしていた男の子が「将来は核爆弾を作りたい」と手紙に書いてきたことがあったという。 「海外の人からすれば『国を守る兵器』という感覚が強いんだ、と衝撃を受けました。彼とは最近Facebookで再会できて、『馬鹿だったよね、僕』と言っていましたけど(笑)。今は弁護士をしています」 大学3年生のときに、文通相手のいたスリランカに一人旅もした。内戦を終えたばかりの現地は、道も建物もぐちゃぐちゃで匂いもひどかったが、日本では報道されていなかった。同じ国内でも観光地は別で、白い大理石で造られたきれいなホテルは外国人観光客でにぎわっていた。 堀尾先生は、こうした世界の現実を多くの人に知ってほしいと思うようになる。国際協力にも興味があったが、大学4年生の教育実習で、生徒の成長を後押しすることにやりがいを感じ、教師を志した。 晴れて教師となり、英語を学ぶ面白さを生徒と分かち合おうとした堀尾先生だったが、早々に壁にぶつかる。進学希望から就職希望の生徒までいた高校で、英語の授業に求められたのは、コミュニケーション以上に「テストや受験で点数を取る」ことだったのだ。就職希望の生徒からは「英語はいらん」「外国の人と別にしゃべらんし」とも言われた。 自分は何のために英語を教えるのか。理想と現実のギャップに思い悩んだ。 それでも、その多様な生徒が「英語を通して自分の世界を広げられないか」と思案した。意識したのは、英語を教えるだけでなく、英語のテキストをみんなで深く読み込むことで、その内容への興味もかきたてることだ。例えば海外の文化や歴史、生徒にも関わる社会の課題…。 また、Skypeで海外の学校とつなぎ、生徒に国際交流を体感させようとも構想した。残念ながら、時差の問題などでその高校在任中には叶えられなかったが、異動後の今の高校で実現にこぎつけた。授業ができるまで文通で英語力を磨き自分の視野も広げる「受験のため」「必要ない」そんな英語の見方を覆したい文通相手との手紙。好きな映画やアーティスト、夢などを語り合った。カセットテープが送られてきたこともあったという。■ INTERVIEW 堀尾先生からは、私が社会科の教員なので、世界の地理や歴史についてたびたび難しい質問を受けています(笑)。例えば「何をもって移民というのか」「この国でこの農産物が取れるのはなぜか」といった質問で、そうした視点を、堀尾先生は英語の授業に生かされていくんですよ。 尊敬しているのは、そのチャレンジ精神と行動力。誰もが「こんなことができたら」と内心思いながら、面倒くさくて蓋をしていることから、堀尾先生は目をそむけず、できることから挑戦するんです。Skypeの授業もそうですよね。なぜそうできるのかというと、自分で世界を見て感じたグローバルな課題を、米原高校というローカルな場所から本気で解決したいと思っているからでは、と感じています。 私も授業を通して、生徒が地理や歴史をしっかり学ぶことを大前提としたうえで、市民的な資質や論理的な思考力も育めるようにし、一人ひとりが社会で活躍できるよう、後押しできればと思います。地歴・公民科藤居克幸先生見習いたいそのチャレンジ精神社会の課題と本気で向き合うHINT&TIPS1「相手に伝わるか」を意識して英語で書くことや話すことをするディベートでは、生徒が肯定・否定の立論を英語で記述。その添削で、堀尾先生は「(辞書で機械的に調べた)難しい単語ばかり使うのはよくない」という助言もする。「自分が知っている単語でどう表現するか」「どうやったら相手に伝わるか」を考えることも大事だからだ。文法や発音も「伝わるか」を念頭に向上を促す。2「相手を理解する」ことを意識して英語で聞くことや読むことをするディベートでは「相手の言ったことを確認したいとき」や「聞き取れなかったことをもう一度言ってほしいとき」の問いかけも生徒が学び、実践する。コミュニケーションにおいては、純粋なリスニングやリーディングのスキルのほかに、あいまいな点を自ら聞き返したり、質問したりする姿勢も必要だからだ。3「英語の技能」や「世界のこと」を内発的な動機から学びたくなる環境にディベートでは、題材を「制服の是非」など生徒にとって身近なテーマにして、英語の難易度を抑え、普段から物事を考えるきっかけにもしている。Skypeによる国際交流では「Yes/Noで答えられる質問で相手の国をあてるゲーム」から入り、楽しみながら地理や文化の知識も自然に深めていけるようにしている。4教科横断で先生同士で学び合い授業で扱う内容に厚みをもたせる英語の授業では、地理や歴史、科学、芸術など多ジャンルの英文テキストを扱う。堀尾先生は、テキスト内容に合わせて他教科の同僚の先生からも情報を集めている。こうした情報交換は米原高校では珍しくないそうで、例えば社会科の先生が、地理で扱う農業のことを理科の先生に尋ねたりもしているという。582021 FEB. Vol.436

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