田中 うちは私立で3つのコースがあり、スポーツをがんばりたい生徒から勉強をがんばりたい生徒までいて、「おとなしい」生徒の割合は、クラスや学年、コースによってさまざまです。―まじめで素直で…という話をするときの先生方は、良い面として挙げつつ、含むところもあるようです。田中 昔なら学校で「いい子」と言われていましたよね。そこになぜ疑問が出るようになったのかがポイントなのでは。その一つとして、入試改革で生徒に求められることが変わってきたことも絡んでいるように思うのです。吉岡 授業でも昔は黙ってノートを取る生徒が評価されましたが、今はグループワークもあり、「座っているだけではダメ」と言われます。授業形態や、授業で生徒につけたい力が変わったことも関係していそうですよね。神谷 まじめで素直でおとなしい生徒が「社会で通用するとは限らない」と、教員が感じてきた部分もあるのではないでしょうか。成績は良かった生徒が就職後に意外と苦戦し、在学中にトラブルも含めていろいろ経験した生徒が卒業後に社長になった、という例が結構あるんですよ。大城 本校はここ数年の学校改革で学力も進学実績も伸びたんですね。私はまだ赴任1年目ですが、前からいる先生は、学力向上は喜ばしいけれど、行事などの場面では「昔よりお利口さんになりすぎているかな」とも感じているようです。―お利口さんに「なりすぎている」というのは何が気になるのでしょう。田中 まじめで人の意見にも耳を傾ける姿勢は大切だと思います。「でも…」という部分は確かにあって、僕が気になるのは「疑問をもたず思考停止していないか」「自分の納得感はあるか」という点です。なぜそれをしているか尋ねたとき「やれと言われたから」と返されるとモヤモヤします。大城 心に思うことがあっても飲み込んでしまうところがあるように感じています。言いたいことが本当はいろいろあるのに「ぶつからないでおこう」「声に出すと損をする」と考えているようで。もう少し自己表現もうまくなるといいな、と思います。神谷 「自分がこれと思うことに一途なまじめさ」ではなく、「言われたことをこなすまじめさ」だと、それでいいのか疑問です。そのほうが楽だからそうしている生徒もいると思うんですよね。自分で考えて自分から動くのって、ときに大変だから。吉岡 まじめだけど受け身な生徒が多いと感じています。授業でわからないことがあってもわかったふりをして、自分からまわりに聞くことがなかなかできません。「わからない」という弱さも出せるようになってほしいのですが。また、まじめな生徒のなかに、その価値観をまわりにも押し付ける子がいるのも気になります。やんちゃな生徒に苛立ち、自分たちと同じようなふるまいを強要したがったり。田中 言われたことにまじめな生徒や、まじめさを他人にも求める生徒は、「正解を欲しがる」というか、本人の教職8年目、教科は数学。定時制の現任校で「社会とつながる」「わからなさを楽しむ」授業を実践。教務部長。摩耶兵庫高校 (兵庫・市立定時制)吉岡拓也先生教職24年目、教科は地理歴史。NPO活動にも飛び込み、自主自立を掲げる現任校でマイプロジェクトも展開。所沢高校(埼玉・県立)神谷一彦先生昔は「いい子」と言われてきた生徒になぜ疑問が出るようになったのか (田中先生)心に思うことがあっても飲み込んでしまう「声に出すと損をするから」と (大城先生)82021 FEB. Vol.436
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