3Vol.436 別冊特集 「グローバル化やダイバーシティの推進を背景に、企業側では、ハイコンテクストを前提としたメンバーシップ型雇用(※2)から、文化が異なる外国人なども働くローコンテクストな環境でも成立するジョブ型雇用(※3)へとシフトする動きがコロナ前から始まっていました。これがコロナ禍によって一気に進みます。メンバーシップ型の組織では個々の専門性よりも組織としての一体感が重視されますから、そこに適性のある人材が求められていました。しかし、ジョブ型になると、個々の専門能力がより重視されます。その能力を活かして、組織の中で自分がどのような役割を果たしていくのかを言語化できる人材が求められるようになるのです」 なお、日本の場合は、ジョブ型とはいっても欧米型とは異なる「メンバーシップ型とのハイブリッド」を目指す企業も多いが、専門性が重視される流れは変わらない。 そして、コロナ禍によって面接も対面型からオンライン面接へと一気にシフトが進んだ。これも表面的な面接手法の変化とだけとらえるのは誤りだ。 対面型の面接は、いわゆるキャッチボール型。応募者と面接担当者が短い言葉のやりとりで対話するなかで、面接担当者は、視線や態度などの非言語コミュニケーションも含めて人物を評価していた。しかし、オンラインになると、こまめな会話のキャッチボールが難しくなる。お互いに録画したデータでやりとりする非同期型の場合はなおさらだ(図3)。るので、今回も想定しておいたほうがいいでしょう」 このようなときには学生の安定志向が高まり、大手企業・人気企業に応募が集中することもその背景にはある。一方で、中小企業の求人倍率はそう大きく高まることはない。 「ですから、規模や知名度のある大手企業にばかり応募するのではなく、自分がやりたい仕事ができる中小企業への応募も同時に進めておくことが大切です。倍率が高まった大手企業・人気企業は、20社、30社受けてもすべて落ちてしまうリスクがあり、その後に中小企業に目を向けても、優良中小企業の採用は既に終わっていることが多いからです」 ここまでは、採用・就活の動向を現象面から分析した就活戦略のアドバイスだが、曽和氏は、コロナ禍は企業の人材ニーズに関してより本質的な変化をもたらしたと指摘する。 「テレワークという新しい働き方が定着したことにより、企業が必要とする人材像が大きく変わりつつあります(図2)。オフィスでみんなが顔を合わせて働く環境では、日本の場合は特に、空気を読んだり、相手の気持ちを察して気を配ったりする力が重視されます。このようなハイコンテクスト(※1)な組織では、お互いに言わなくてもわかる関係が築かれていますから、仕事の役割に関しても明確化・言語化の必要がありませんでした」 しかし、テレワークでは、あうんの呼吸が通じない。指示をする側には、相手の役割や仕事内容を明確化・言語化・数値化して伝える必要が生まれる。一方、指示を受けて働く側にも、自分のできることや置かれている状況などを明確化・言語化・数値化して伝える必要が生まれる。欧米のようなローコンテクスト(※1)なコミュニケーションが求められるのだ。これは単なる表面的なコミュニケーションの形式の変化にとどまらない。1 ハイコンテクスト/ローコンテクスト文化人類学者エドワード・T・ホールが提唱した概念。文化や言語、価値観などが近い人たちの集団はハイコンテクストであり、共有している要素が少ない集団はローコンテクストとされる。日本は典型的なハイコンテクスト社会。2 メンバーシップ型雇用ハイコンテクスト社会の日本企業に多い雇用形態。年功序列、終身雇用を前提とし、仕事内容や勤務地を限定せず、定期的に異動や転勤があるのが特徴。メンバーシップ型雇用での就職は、就職ではなく「就社」と言われることも多い。3 ジョブ型雇用仕事の内容をあらかじめ規定し、それに対応した人材を採用・雇用する制度。欧米ではジョブ型が一般的。ここにきて日本もジョブ型への移行が進みつつあるが、完全な欧米型へのシフトは難しいとも言われている。4 構造化面接採用基準を明確にし、それに対応した質問をあらかじめマニュアル化しておく面接手法のこと。個人の印象に左右されない公平で客観的な評価が可能になり、面接時間も短縮できるが、対面だと冷たい印象を与えやすい。5 履修履歴面接学生に大学の履修履歴や成績表を提出させ、それに基づいて行う面接のこと。今、大学では授業への出席の厳格化が進んでおり、以前と比べて学生が学業に取り組む時間が長くなったことで注目されている。用語解説(※)テレワークの拡大で求められる力が変わる図2オフィスワーク● 仕事の役割が明確に定義されていなくても、ニュアンスや空気で役割分担が自然と決まる● 日本の場合、ハイコンテクスト型組織になりやすい● 臨機応変に指示や質問ができないので、あらかじめ仕事の役割を定義しておくことが必要● ローコンテクスト型組織になるテレワークあうんの呼吸や空気を読む力が重視される自分の役割・能力を明確化・言語化する力が重視される
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