みましょう。対話では、自分とは異なる意見に対して早急な評価を下さず、どのような前提からその意味づけがなされているのか理解を深めることを重視します。それは、自分自身の前提を相対化し、理解することにもつながります。その結果、以前には保持していなかったお互いに共通する新たな意味を発見することがあります。こうした新たな意味づけや、アイデアが創発する対話のことを、私は「創造的対話」と呼んでいます。より厳密には、それ以前の、互いを深く知ろうとする対話を「探究的対話」と呼び、その結果(または、うまくいったときに)起こる対話を「創造的対話」として区別しています。 その創造的対話がなぜ必要なのか。切り口はいろいろありますが、ここではキャリアの観点から考えてみましょう。現代の組織は専門分化が進み、どこも分業体制がとられています。本来、学びは全体性のある営みなのに、各論的発展を遂げた結果、誰もが一定の角度で思考することを強いられ、互いにわかりあえなくなっています。けれど、よく言われるように、現代的な課題は、異なる専門性をもつ人同士が協力しないと解決できないし、イノベーションも起こりません。その一歩目として対話が必要になるのです。 対話自体は極めて原初的な営みであり、決して高度なことではありません。ただ、高校生にとって難しさがて斬新なアイデアが出ない」など、さまざまな相談がもち込まれます。多くは、私たちがもつノウハウに期待し、〝処方箋〞の提供を求められるのですが、研修で最新のビジネスフレームワークを紹介するだけで問題が解決することはまずありません。そうした組織には、より根源的な問題が潜んでいることが多いからです。それを私は、人間の「認識と関係性が固定化する病い」と呼んでいます。「認識の固定化」とは、個人の中で暗黙のうちに形成された認識(固定観念)によって、創造的な発想が阻害されている状態。「関係性の固定化」とは、個人の認識が固定化されたまま関係性まで固定化し、相互理解や創造的なコミュニケーションが阻害されている状態です。 この状態になると、「なぜ」「どうして」と前提を疑うことがなくなり、逆に「こうあるべき」という規範から抜け出すことが困難になります。解くべき問題の本質を見失いやすいのです。 こうした状態から、どうすれば抜け出せるか。その話の前に、コミュニケーションのタイプを4つに分けて確認しておきたいと思います(詳細は図1)。①「討論」…どちらの立場の意見が正しいかを決める話し合い。②「議論」…合意形成や意思決定のための納得解を決める話し合いで、結論を決めることが目的。③「対話」…自由な雰囲気の中で行われる、互いの理解を深め、新たな意味づけをつくる話し合い。④「雑談」…自由な雰囲気の中で行われる気軽な挨拶や情報のやりとり。 このうち、認識と関係性の固定化に揺さぶりをかけるのが「対話」です。他の3つは、個人の暗黙の認識に迫ったり、互いの関係性を編み直したりせずとも進められますが、対話の場合、物事に対する各自の意味づけの共有を重視するため、一人ひとりの暗黙の認識が場に可視化されます。それが相対化されることで、各自の認識が問い直され、相互理解につながるのです。 もちろん状況に応じて必要なタイプは違います。裁判などは「討論」が求められる典型ですし、円滑な人間関係のためには「雑談」は欠かせません。 ただ、あまり意識されることのなかった「議論」と「対話」を使い分けることは大切です。時間的制約の中で結論を導く「議論」を、「対話」に変えることで、相互理解や新たな意味を生み出すことになるはずです。 対話について、もう少し深掘りして(株)MIMIGURI Co-CEO東京大学大学院情報学環 特任助教安斎勇樹あんざい・ゆうき●1985年生まれ。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。東京大学大学院情報学環 特任助教。商品開発、人材育成、地域活性化などの産学連携プロジェクトに取り組みながら、多様なメンバーのコラボレーションを促進し、創造性を引き出すワークショップデザインとファシリテーションの方法論について研究。(株)ミミクリデザインCEOを経て、2021年3月より(株)MIMIGURI Co-CEO。取材・文/堀水潤一 撮影/平山 諭「創造的対話」とは何かなぜ今、求められるのか対立を乗り越え、新たな価値を創造する「対話」問いが誘発する「創造的対話」192021 MAY Vol.437
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