キャリアガイダンスVol.437
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 同じ関心でも、好奇心寄りの関心と、困りごと寄りの関心があります。英語で言えばinterestとconcern。良い意味の関心はもてない人に対しても、「なんかイライラする」など気になることはあるでしょう。そこで終わらせず、「なぜそんな態度をとるのか」と考えるうち、ふと「こういうことかな。それならわからないでもないな」と、見方が変わるときがある。そこが好奇心寄りの関心へ転換するチャンスです。 その点、文化祭などの学校行事は人間関係を編み直す絶好の機会。普段、話さないクラスメイトと接し、「めっちゃいい奴だな」と気づくことがありますよね。日常の人間関係は非日常で揺さぶる。この転換を企業の人事担当者には「文化祭理論」と説明しているのですが、学校の中には、格好の場が既に埋め込まれていると思います。 では、どうすれば生徒に対話を促せるか。創造的対話のファシリテーションについて考えてみたいと思います。か。誌上研修に多くのヒントがあったため、ここでは逆に、対話が起こらない理由から考えたいと思います。 私の経験上、最大の理由は、相手に関心をもてないからです。「〝営業〞が何か言ってきた」など、人を個人ではなく、役割で見ているときなどはまさにそれ。人に対する想像力が欠けた状態が対話の最初のボトルネックです。「たまたま同じ組織に配属されただけの人と関係を築きたくない」というのであれば無理をする必要はありません。ただ、「どうせなら楽しくありたい。成果を出したい」と思うのならば、関心をもつことが第一歩。あるとすれば、「自分は何者で、何を大切にしているのか」といったリフレクションが不足していること。そのため、異なる他者に対する想像力も働きにくいのです。加えて、思考と言動が伴わない思春期特有の揺らぎもあり、対話をコントロールしにくい。けれど、逆に言えば、この年代から対話の姿勢をもつことは、他者や自分に向き合うことになるため、よりよい人間関係や進路選択にもつながるでしょう。 どうすれば創造的対話は起こるの 冒頭、「問いは、創造的対話のトリガーになる」と述べましたが、必ずしも問いはファシリテーターがつくるものではありません。参加者から発せられた問いや、何となく場に生まれた問いもあるでしょう。今、どういう問いが共有されているかをモニターし、問いを起点あるいは媒体として、創造的対話の場をつくることがファシリテーターの腕の見せ所です。 どういう問いを投げかけたら対話が盛りあがるかは、問題の本質を捉える思考法が役立ちます。例えば、「それって本心ですか?」など、ひねくれた視点から物事を捉えるとか(天邪鬼思考)、ふと湧いた疑問をストレートに投げかけることで(素朴思考)、認識の固定化を揺さぶるのです。特に有効なのは、場が〝優等生的〞な言葉で支配されているとき。例えば企業研修でよくあるような「大切なのは課題を自分ごと化すること」という合意形成は、聞こえはいいですが、「まあ、そうですよね」で終わりがち。そんなとき例えば「〝自分ごと化〞を言い換えるとしたら何でしょう?」と揺さぶるこ問いによって個人の認識は揺さぶられ、対話の中で関係性は編み直されていく対話が起こらない最大の理由は、相手に関心をもたないこと参加者に創造的な対話を促し本音や価値観に迫る「問い」の力図1 コミュニケーションの4つのタイプあるテーマに対して、異なる意見の立場に分かれ、意見を述べ合い、どちらの意見が正しいかを決めるコミュニケーション。最終的に結論となった主張に、その場にいる全員が納得するとは限らない。勝ち負けがはっきりし、論理的に正しい特定の誰かの主張が結論として採用され、反対意見をもっていたが、うまく主張が通せなかった誰かが「討論に負ける」ことがありえる。討論あるテーマに対して、関係者の合意形成や意思決定をするための話し合い。論理的な話の道筋や、主張の正しさ、効率性が重視され、コミュニケーションを通して「結論を決める」ことが目的。討論とは違って、勝ち負けを決めるよりも、全員で協力をしながら納得のいく「答え」を導くことに主眼が置かれる。議論あるテーマに対して、自由な雰囲気の中、それぞれの「意味づけ」を共有しながら、お互いの理解を深めたり(探究的対話)、新たな意味づけをつくりだしたり(創造的対話)するコミュニケーション。議論や討論と異なり、正しさや勝ち負けはないため、他者を打ち負かそうとしたり、答えを導こうとする必要はない。対話対話と同様に自由な雰囲気の中で行われるが、もう少しカジュアルなコミュニケーションを指す。お互いの価値観や意味づけの共有までは踏み込むことなく、気軽な挨拶や情報のやりとりによって成立。関係構築が目的の場合もあれば、目的そのものがない場合もある。雑談『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』安斎勇樹・塩瀬隆之著(学芸出版社)と安斎氏への取材をもとに編集部にて作成。202021 MAY Vol.437

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