キャリアガイダンスVol.437
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対話から学ぶ力は誰にでもある。生徒を信じ、対話が巻き起こる授業づくりをどのような生徒にも、対話から学ぶ力はある。全国の教育現場と連携し、対話による協調学習の実践研究を進めてきた白水先生は、こう断言します。「対話から学ぶ」とはどういうことであり、生徒はどのようなプロセスで学ぶのか。授業においてそれを実践するためには、生徒や教師に何が求められるのか。対話による授業づくりの軸となる視座について、語っていただきました。つくったのか?」という問いについて話し合うとします。「僕はこういう社会だと思う」「いや、でもこうなんじゃない?」「え、マジで?」…と資料も使って仲間と対話を重ねていくなかで、考えの違いが見えてきます。自分が確信をもっていた考え・答えの不完全さが露呈し、壊れることもあります。こうした「違い」や「不完全さ」が明らかになると、学習者一人ひとりの中に、自分なりの答えを深めよう、つくり直そうという動きが生まれます。 「自分の考えをつくり、壊し、つくり直す」ことを繰り返すなかで、学習者は「わかった」と「わからない」を往還します。わかったつもりでいることでも、まだわからない仲間に説明する中身(何を学ぶか)」とセットであるのが特徴で、いわゆるスキルとして切り離せるものではありません。一方、何を話すかが決まっているプレゼンテーションや自分の主張すべきことが明確なディベートは、スキルと中身を切り離して考えることができ、対話のあり方とは異なります。協調学習においては、「対話を通して学習内容への理解を深める」という視点が非常に重要になってくるのです。 対話により理解を深めていくプロセスを解説しましょう。例えば、日本史の授業で「豊臣秀吉はどんな社会を 私は長く、授業における協調学習、つまり、「仲間との対話からの学び」について実践研究を重ねてきました。協調学習とは、ある課題について仲間と対話をするなかで、「自分の考えをつくり、壊し、つくり直す」ことを繰り返しつつ、理解を深めていく学びのこと。問いに対する答えを「正解・不正解」ではなく「不完全・より完全に近い」と捉え、対話を重ねて一つの問いにみんなで答えを出そうとするなかで、「より完全に近い答え」をつくり出していく学びです。 授業における対話は、常に「学習のうちに、「あれ?」という疑問が出てきます。自分の理解や説明を不完全だと感じ、さらに深掘りをする、わかり直そうとする心の動きが出てくるのです。そうしたなかで、「どうして違う答えがあるんだ?」「こういうふうにも考えられるのか…」という内省が生まれます。この内省を通すと、人はもっと考えたい、もっと解きたいと、より意欲的・主体的になります。理解しきれないからこそ、その「不完全感」がより深い理解へのモチベーションを掻き立てるのです。 個々の学習者が理解を深めつつ、さらに対話を進めていくなかで、より良い答え、より完全に近い答えが見つかっていきます。そして、対話により一つしろうず・はじめ●1970年生、1993年東京大学卒業。認知科学博士。専門は学習科学・認知科学。中京大学で故・三宅なほみ氏と共に大学生対象の協調学習実践、国立教育政策研究所で学習科学に基づく教育政策基盤研究を展開後、東京大学CoREFで全国の自治体や先生方と連携して小中高生を対象に「知識構成型ジグソー法」を活用した協調学習実践研究を進める。現在は国立教育政策研究所に所属し、今後の教育のための授業法・評価・ICT活用・教師支援研究を一体的に進めている。国立教育政策研究所総括研究官/東京大学 客員教授白水 始答えが不完全だからこそ、より深く理解したくなる対話を通して創造と破壊を繰り返しつつ、理解を深めていく222021 MAY Vol.437

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