る効果が大きいですね」 こうして各自が進めてきた探究活動の節目には、中間発表会・成果発表会を開催する。ここで重視しているのは、丸暗記したことを上手に発表することではなく、他者から問いをもらい探究をさらに深めることだ。少人数に分かれて互いに発表を行い、同じだけ対話の時間を設ける。地域の大人も招き、指摘・批判するのではなく、次の思考や行動につながる問い掛けをしてもらう。 「発表会を『〇〇さんの意見を聞くチャンス』と楽しみにする生徒もいます。探究を通して、対話は楽しく実りのあるものだという意識になっているからではないでしょうか」 多様な立場の人が意見を交わすことの面白さや価値を知った生徒たちのなかには、「この経験をほかの明日生にも」と、生徒同士が語り合うワークショップを自ら企画し、課外で開催する生徒も出てきた(写真参照)。地域の大人を巻き込んで実施する例も少なくない。 「『やりたくてしょうがない』というスイッチが入ると、コロナ禍でも諦めず工夫し、たくましく取り組んでいます」 こうした行動に現れなくても、〝頭の良さ〞につながっている手応えが教員にはあるという。 「対話を重ねてきた生徒は、話すとわかります。頭をフル回転させながら話し、レスポンスが速く、受け答えも深い。私たちが育てたいのは、こういう頭の良さではないでしょうか」 また、授業中、グループで問題を解く活動をしていると、生徒から「まだ答えを言わないで!」と声が上がるようになった。 「早く正解にたどり着こうとするのではなく、対話しながら思考を深めていくプロセスを楽しむようになってきた。やはり生身の人間との対話は面白い。それで自分の思考が深まると気づいた生徒は、学びの仕方が変わります」 さらには将来像にも違いが出るようだ。 「地域と対話し探究が深まった生徒は、これから自分がどのように生きていくかというイメージの中に、ちゃんと他者や社会がある。すると、進学先での学びや活動の質も変わる。社会と接続した生き方になっていくように感じます」専門家の話を聞けば新しい知見を得ることができる。でもその前に、自分の考えを言葉にすることが大事なのかもしれません。人に話せば話すほど、自分の考えがまとまっていくし、あちこちに矢印が飛んでいくみたいに新しい発想が出てくるからです。探究に取り組み、物事をいろんな方向で見る力や、人と話すなかで思いついたアイデアを「実行しよう」と前向きなエンジンが身についたかなと思います。(5回生・石塚柊しゅう羽さん)4回生のとき、学生と社会人が語り合う外部イベントに参加。自分の考えが整理でき、将来に向けてがんばろうという気持ちに。「学校のみんなにも経験してほしい」と、学ぶ目的を考えるワークショップを企画し、NPOを巻き込んでオンラインで実施しました。私のモットーは「自分のチャンスは自分で見つける」「自分で決めたことは全力で楽しみつくす」。これからも、自分の「やりたい」だけでなく「誰かのためにできること」も考え、いろんな分野に目を向けて活動していきたいと思います。(5回生・荒井 聖せいさん)5回生の春、部活動をやる意味を見失い、退部。自分が空っぽに感じたことから、「人が成長するには」を探究テーマに。校内外で人と話すなかで、「成長の仕方は人それぞれだけれど、いろんな人と話すことが自分を見つけるヒントになるのでは」と考えるようになり、校内で対話のワークショップを始めました。卒業後は社会心理学を学び、集団の中での人の成長などを追究します。(6回生・舛田翔しょうよう陽さん)社会を変えるような新しいものを生むのは、天才的な発想じゃない。その前段階にある、現状誰がどう困っているのかを把握し尽くすことではないか。探究を通じて、そう考えるようになりました。卒業後は大学の国際系学部で文化相対論を研究する予定です。いろんな国の人とお互いの文化の違いについて話し合いを重ね、国際問題が発生する根底に何があるのか正しく見極めていきたいと思います。(6回生・石山勇太郎さん)自分の考えを言葉にすることが大事「やりたい」だけでなく「誰かのために」人と話すことが自分を見つけるヒントに問題の根底に何があるか対話で探っていきたい2007年設立/普通科/生徒数454人(男子187人・女子267人)/2019年度より文部科学省「地域との協働による高等学校教育改革推進事業(グローカル型)」の指定校。AKB Future Project推進委員会の太田 稔先生生徒が考えたテーマで地域の大人と討論。「めっちゃ楽しかった。けど、すっげー頭使った。使いすぎて頭痛がする」とコメントする生徒も。5回生(高校2年)の荒井さん・石塚さん(コラム参照)は、学ぶ目的について対話するワークショップを企画し、NPOと協働で開催。コロナ禍で当初の計画は中止となったが、数カ月後オンライン開催にこぎつけた。6回生(高校3年)の舛田さん・石山さん(コラム参照)は、「部活」を切り口に校内でワークショップを数回開催。解決策や結論を出すことを目的とせず、話し合うプロセスに重点を置いたという。生徒インタビュー学校データ話すことで思考を深めるプロセスを楽しむように対立を乗り越え、新たな価値を創造する「対話」“広がる対話”“深まる対話” 高校実践事例272021 MAY Vol.437
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