キャリアガイダンスVol.437
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校則を変えるのでも、生徒や先生、保護者などいろいろな視点から考える」ことが必要と感じ、「どうすれば多様な人の意見を取り入れられるか」もメンバー同士で話し合った。全校生徒や保護者にアンケートを行い、先生や警察職員と直接対話した。各学年の掲示板に模造紙を貼り、変えたい校則について誰でも自由に書き込んだり、賛同のシールを貼ったりできるようにした。 一連の活動で、生徒たちには「相手を理解しようとする力、聞く力が何よりもついた」と上所先生は感じている。さらに、その力が伸びたことによる相乗効果もあったという。 「相手の話を傾聴するようになったから、自分が話すときも『まわりは私を理解しようとして聞いてくれる』と安心できるようになり、発信するのもうまくなったんです。たとえ主張通りにならなくても、ほかの意見と組み合わせていけることも経験したので、『自分の意見が次につながる』と信じて、思いを発信することもできるようになりました」(上所先生) 活動自体も想定以上の広がりを見せていく。校則の見直しだけでなく、生徒が自分たちの「行動指針」まで考える取組に発展したのだ。 例えば、スマホ持ち込みを解禁し、通学時や在校時に節度をもって使えるようにしたい場合、節度ある使い方をいちいち説明すると複雑になるため、校則をシンプルな文にすると、個々の判断に任せる部分が出てくる。その際に「私たちは何を軸に判断するのか」。また、娯楽施設の出入りを何でも認めるのはこの学校らしくない、という意見もあったが、「私たちが守りたいその『らしさ』とは何なのか」。 対話を重ねるなかで、校則だからダメ、校則にないからOKとするのではなく、「物事を自分で判断するときの拠り所」(安田先生)まで考える必要性を、生徒も先生も感じたというのだ。生徒たちは、校則にかかわらず大切にしたいことを「自分を律し、自分を愛する」「礼儀・品・やさしさ」という言葉にまとめて指針とした。 2020年度末、生徒の案を基に来春より校則が変わることを正式に発表。途中まで、有志メンバーや全校生徒のなかには「結局変わらないのでは」と半信半疑だった者もいたそうだが、「本当に変わるんだ」という実感をもたらした。その感覚が校内に広がった今後、生徒がプロジェクトにどう関わり、どんな成長を見せるかを、先生たちは楽しみにしている。 「生徒も我々もみんなが学校づくりに参加し、『私たちの学校』にしていきたいですね。その経験というのは、生徒が社会に出たときに、単にルールに従うのではなく、より良いルールや仕組みを自分たちで創るという、民主主義や社会づくりにもつながっていくと思うのです」(安田先生)1915年設立/普通科/生徒数1224人(女子のみ、中学生510人/高校生714人)。広島県に幼稚園から大学院までもつ学校法人安田学園の中高一貫校。特進コース、総合コース、SSコース、STEAMコースがある。写真上段は、生徒たちの対話の1コマ。要所で外部協力者もリモートで参加した。写真中段は、全校生徒や保護者へのアンケート、および教員や警察職員との対話。写真下段は、学校提案の場面と、見直した校則をまとめたスライド。学校データ対話のなかで問いが生まれ新たな考えを創造していく話し合うのが好きで校則に疑問もあったので参加したのですが、みんなの意見が違ったときが大変でした。下校時にコンビニに寄れたら「便利」「危険もある」で意見が割れたり。そこからお互いの考えのいいところや共通点を見つけて「水分補給など必要な場合のみ立ち寄り可」という新しい意見にしました。自分の意見だけを尊重するわけにはもういかないけれど、自分たちの意見で物事が変わるのはすごく嬉しかったです。来年も携わり、みんながより楽しく過ごせる学校にしていきたいです(高校1年生・佐々木妃奈さん)人前で話すのは得意ではなかったのですが、カラオケ禁止のような校則がなぜあるのか知りたくて参加しました。学校を動かすので、授業以上に言葉の責任を感じました。カラオケもいいと思っていたけど、警察の方から被害を聞き、先輩の築いた安田らしさも考えたら迷い、意見を出し合って「制服ではダメ、私服ならOK」という校則にしました。みんなにとっていいものを作る大切さを学べたと思います。校則をもっとこうしたい、という思いはまだみんなにあると思うので、来年も関わりたいです(高校1年生・土井彩乃さん)互いの意見を合わせて新しい考えを創れるように生徒インタビューみんなにとっていいものを作る大切さを学んだ右から、副校長 安田 馨先生、生徒会顧問 上所奈美先生対立を乗り越え、新たな価値を創造する「対話」“広がる対話”“深まる対話” 高校実践事例292021 MAY Vol.437

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