希望の道標取材・文・撮影/山下久猛最初から100点なんか目指さなくていい。まずは失敗前提でやってみよう!スタートアップハードウェアメーカー代表/八木啓太 2011年に大手企業を退職し、一人で家電の開発、販売を始めました。「ひとり家電メーカー」としてメディアに取り上げられると注目してもらえるようになり、少しずつ規模も大きくなりました。現在は10人ほどの従業員と一緒に、使う人が少しでも幸せになるために、私たちにしかできないものづくりに取り組んでいます。 これまでの歩みを振り返ったとき、これがなかったら今の私はないという出来事はいくつかありますが、なかでも重要なターニングポイントが高校時代にありました。高1のとき、アップルから発売された初代iMacとの出会いです。従来のパソコンの概念を一変させた革新性に大きな衝撃を受け、将来は自分もiMacのような製品を作る側になりたいと強く思ったんです。 その後、自分が作りたいかっこいい製品を作るためには、電子工学、機械工学、デザインの3つの要素が必要だとわかったので、まずは電子工学を学ぼうと大学は工学部電子工学科を選びました。デザインは大学入学後、本やネットで調べたり、プロダクトデザインコンテストに毎週参加するなどして独学で勉強しました。コンテストは最初のころは落選しまくりでしたが、試行錯誤を繰り返すうちに徐々に受賞できるようになりました。残りの機械工学は就職してから実戦を通して学ぼうと思い、就職活動は機械工学系の職種1本に絞り、応募。しかし、やはり大学で修了していない機械工学の分野では採用してくれる企業はなく、不採用通知の連続でした。就職活動終盤には、「このままではどこにも就職できない。やはり電子工学の会社に応募するしかないのか…」と心が折れかけました。そんなときに、1社だけ富士フイルムが「そこまで機械工学がやりたいと言うのなら頑張ってみなさい」と採用してくれたんです。このときはギリギリで就職できて嬉しかったのと同時にほっとしました。 入社後は4年間で5つの医療機器の開発に従事。この間に電子工学、機械工学、デザインの3要素をうまく融合させ、自分で作りたいものが作れると思えるようになりました。そして、自分の理想を極限まで追求したものづくりは企業のなかにいては難しかったので、27歳のときに退社し、Bsize(ビーサイズ)を立ち上げ、一人でものづくりを始めたんです。 これまでの経験から高校生の皆さんに伝えたいことは、何でもうまくいかないことを前提にやってみようということです。例えば、学生時代に応募していたデザインコンテストも最初から「落選するのが当たり前」という気持ちで挑んでいました。重要なのは落選した後で、まずはその原因をとことん調べて考えます。そうすると自分に足りないものがわかるので、次回はそれを補ってデザインを作る。その失敗と改善、試行錯誤の繰り返しで、最終的に目指しているところにたどり着けました。就職活動も同じで、「不採用は当然」から始め、面接を振り返り、内定を得られる方法を逆算して考え、改善を続けたことで、最終的に受かることができました。 最短距離での完璧なゴールは難しいし、ましてや高校生は人生これからです。そもそも最初からプロフェッショナルな人なんていない。だから、とりあえず100点なんか目指さずに、0点からスタートしてみればいい。それで失敗しても命を取られるわけじゃないし、罰金を取られるわけでもないですからね。いろいろ試して、失敗してみて、そのなかで結果的に続けてみたいことに出会えたとしたら、それがキャリアのスタート地点に適したものではないでしょうか。1983年、山口県出身。大阪大学工学部電子工学科、同大学院電子工学専攻修了。2007年4月富士フイルムへ入社し、医療機器の機械設計に従事。2011年1月末に同社を退社。同年9月Bsize(ビーサイズ)株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。同年12月に最初の製品であるLEDデスクライト「STROKE」を発売し、経済産業省のグッドデザイン賞、世界的に権威ある独red dot design awardを受賞する。2017年には子どもの見守りGPSサービス「GPS BoT」を発売。小学生の保護者の間で大人気のヒット商品となった。現在は、10人の社員とともに製品開発に取り組んでいる。やぎ・けいた32021 MAY Vol.437
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