キャリアガイダンスVol.437
31/66

かが見えてくる。人の体験を聞くことによって、自分への理解が深まる。誰にも否定されない環境で話すことで自信がつき、どんどん話も上手になります」(外川校長)。 ただ、すべての生徒に哲学対話が機能するとは限らない。「山高ゼミで体験して『面白い、自分の役に立つ』と気づいてくれる生徒が少しでも増えてくればと考えています」 「哲学対話によって、劇的に何かが変わるものでもない」と外川校長も関本先生も、口を揃える。「ゆっくりした内面変化はあっても見た目ではわからない。だから、これをやって何か意味があるの? と言われたこともあります」と関本先生。 しかし、生徒は確実に変わっていた。1年生の別所杏きょうと音さんは、「哲学対話に参加して、考えることが楽しくなった。将来を考えて、勉強も必要だと思い、勉強するようになりました」と話す。同学年のIさんは、「話を組み立てるのがうまくなったと思うし、最近では、哲学対話の司会を任されることもあります」と言う。2年生の髙野紗さえ英さんは、「哲学対話で、将来やりたいことがわかった」と目を輝かせる。 まさに、対話によって自分とは何者かを知り、考える力を身につけ、学びに向かう力が生まれているのだ。そして、生徒から新たなファシリテーターも生まれている。 「今後は、総合的な探究の時間や通常の授業の中にも対話を取り入れたい」と外川校長。しかし、その難しさも痛感している。「授業になった瞬間に、評価の対象となる。教員が『明日は対話をやるから内容を考えてきなさい』と言ったら、それはもうやらされ仕事で、生徒はのってこない。困った教員が『○○くんどう思う?』とやったらもう、それは対話ではなく、〝対話を強要されている〞ことになる」。それでも、日頃からペアワークなどで上手に対話が成立しているクラスもある。「そういうクラスは先生のまなざしが優しい。生徒もその場が好き、居心地がいいと感じている。そういう場づくりができれば授業でも対話は成立する」(外川校長)。 外川校長の構想は、まずは5教科以外の4教科で対話を取り入れることだ。進学校では受験に関係ないと軽視されている4教科こそ、対話の場になりうるし、大学進学につながる力を養う時間にもなると考えている。「4教科をどれだけ充実させるかが本校の生き残る道かもしれません」 大山高校の次のキセキも、そこから生まれるのかもしれない。勉強が嫌いで受験勉強もせず、第一志望の高校は不合格。父から大山高校の哲学対話のことを聞き、「この高校なら変われるかも」と思って入学しました。みんなで思いを隠さず話し合うことで考えが深まり、世界が広がりました。哲学対話がきっかけで考えることが楽しくなり、勉強も好きになりました。成績も上がり、両親も驚いていますが、自分が一番自分の変化に驚いています。(1年生・別所杏きょうと音さん)哲学対話で人の意見を聞くことで、そういう見方もあるのかと気づいたり、視野が広がって楽しいと思うようになりました。「オタクは迷惑な存在か」というテーマで話したときに、「オタクがグッズなど買うことで経済を回している」「案外迷惑ではないのでは?」という結論に自分自身は行きついた。こういう経験を通して、立ち止まって深く考えられるようになりました。(1年生・Iさん)もともと、答えのない問題を考えることや集団討論が好きで、時間があれば哲学対話に参加してきました。哲学対話では、自分の意見も言いますが、人の意見も聞くので、考え方が柔軟になり、人の気持ちを汲み取れるようになったと思います。哲学対話があったから、自分は人と話すことが好きで得意だと気づけたし、自信もつきました。大学に進学して将来は営業の仕事に就きたいと思っています。(2年生・髙野紗さえ英さん)考えることが楽しく、勉強も好きになった【哲学対話8つのルール】自分の経験に即して話す結論が出なくてもいいわからなくなってもいい意見が変わってもよい何を言ってもいい人を否定したり茶化したりしない聞いているだけでもいいお互いに問いかけることが大切立ち止まって深く考えるようになった自分に自信がつき、好きなことに気づけた1959年開校/全日制・定時制/普通科/生徒数575人(男子298人・女子277人)/卒業生の36%が大学・短大に、33%が専門学校に進学。21%が就職(2020年)。右から外川裕一校長(2021年3月まで)、関本智美先生車座になって対話をする生徒たち。コミュニティボールを持った人が話す。床にはルールカードとクエスチョンカードが置かれている。生徒インタビュー学校データ考えはじめ、学びに向かう力が開花していく対立を乗り越え、新たな価値を創造する「対話」“広がる対話”“深まる対話” 高校実践事例312021 MAY Vol.437

元のページ  ../index.html#31

このブックを見る