キャリアガイダンスVol.437
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 職員会議や学年会議で、ままならない意思決定や、ほかの人との対立に悩んだことが、先生方には少なからずあると思います。それは個々の見解の相違が原因というより、「管理職と現場」「分掌や教科の壁」といった立場の違いから起きていることも多いのではないでしょうか。どの先生にもその人なりの考えや豊かな経験がある。それなのに立場の違いもあって、どうもうまく力を合わせられない、と。 もちろん、「立場の違い」を越えて、おのおのが何をどう思っているか「対話」することが大切なのは皆わかっています。でも、日本の文化では「対話」がなかなか難しい。また、「話せば対話」になるわけでもありません。 実は、「話」が「対話」になるまでには4つの段階が必要なのです。 最初の段階は「会話」です。差し障りのない挨拶や世間話のことで、互いのテリトリーに踏み込みません。 その次が「相手と直面する」段階です。相手の言葉に真剣に向き合い、もし納得できなければスルーせずに「何でそうなの?」と踏み込みます。「私はそうは思わない」と言うことさえあるでしょう。対立も沈黙も大事にしてさまざまな壁を乗り越える“哲学対話”で紡ぐ組織づくり対話をすることは、教員同士にとっても、気づきを得たり協働したりするうえで大事なことだといえます。しかし、日々の多忙さや、生徒のためという先生方の思いからくる軋轢が、その対話を阻む壁になりがちです。そうした壁をどうすれば乗り越えられるのかを、「哲学カフェ」で多様な人との対話を実践されている五十嵐沙千子先生に伺いました。筑波大学人文社会科学研究科 哲学・思想専攻 准教授五十嵐沙千子いがらし・さちこ●筑波大学大学院人文社会科学研究科哲学・思想専攻単位取得退学。博士(文学)。東海大学文学部で講師として4年間、哲学対話による授業を実践、最終年度には同大のTeaching Award(教員約1600人中第1位)を受賞。筑波大学に移り、2009年から市民のための哲学カフェ(筑波大学哲学カフェ「ソクラテス・サンバ・カフェ」)を主催。主な著書に『この明るい場所 ― ポストモダンにおける公共性の問題』(ひつじ書房)などがある。「なぜそう思うのか?」と踏み込んだ先に対話がある取材・文/松井大助 撮影/平山 諭322021 MAY Vol.437

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