まれた書類を整理することは、簡単ですがとても効果的です。 大切なことは、そうした取組を管理職に丸投げせず、やってみようと思いついた個々の先生が身近な範囲で行うことです。自律分散型で動く人が増えれば、必ず職員室の空気は変わります。小さな、自分で無理なくできる範囲のことから出発すればいいのです。 こうして対話が広がると、先生たちの中には「答えがなくても一緒に探していきたい」という気持ちが芽生えていきます。一緒に考えるのが面白くなるからです。今まで信じていた自明な答えが崩れても、また、昨日仲間と合意したことが今日覆っても、それすら楽しい、と思えるようになります。明日にはまた新たな考えが生まれるのだから、と。 非秩序系といわれる今の時代は、絶対の正解はなく、あるのはそのつどの答えのみ。目的地に「着く」ことはなくて一緒に「旅をする」ことしかなく、絶えず合意は揺さぶられ、昨日の決定は今日の妥当性を失い、ひたすら対話を重ねることになります。 ただ、先生方は多忙で、背景理解から始めたくてもなかなか機会がありません。そこで意識してほしいのが「使える資源を探す」ことです。 まずは「時間」の資源。例えば校内の「会議のあり方」を見直し、対話の時間を「先に」確保します。連絡事項は事前にメール等で共有し、会議は審議と質疑応答に絞り、10分でも対話の時間を捻出するのです。10分でできる対話はかなりあります。関係づくりは大事でも緊急でないため、後回しにされがち。「緊急ではないが重要なことに時間を使う」という時間のマトリックスを明確に意識してみてはいかがでしょうか。 「空間」の資源も重要です。人は目に見える環境(アフォーダンス)に影響されます。「話が生まれやすい空間」をイメージし、職員室や教室の机を並べ替えたり、自分を守る壁のように積手がそう考える必然性も、相手が歩いてきた歴史も見えてくる。 それがわかれば気持ちは楽になり、相手を尊重できるようになります。同時に、相手との距離が変わってきますから、自然とお互いが率直に、アサーティブになっていきます。 そうすると、おのおのの考え方が違っていても不安になるどころか、違っているからこそ話す意味があると確信されてくるのです。新しい考えを一緒に創造する対話のプロセスに慣れ、自然に協働が生まれてきます。「関係」の質が変わり、対話を通して互いの「思考」が磨かれ、「行動」も変わり、共に出した「結果」によって関係も深まる――成功の循環のサイクル(図1)が回り出します。 一朝一夕で関係が深まるわけではありませんが、背景理解を深め、小さな対立を対話で乗り越えていけば、「今の学校をどう思うか」といったことも率直に話し合える空気が、組織に、徐々に、確実に醸成されます。 でもそれって実は楽しいことではないでしょうか。世の中はこういうもの、常識や決定には従わないといけない、と思い込んでいたところに、「いつでも自分で考えていいんだ」「仲間と一緒に考えていけるんだ」という希望が見えてくるのですから。日々の対話のなかで、私たちは自分自身の古い殻から解放され、新しく「生まれる」という感覚をもつようになります。そうなると先生方はよくこう言ってくださいます。「明日も早く学校に行きたい!」と。気づいた人ができるところから対話のために「使える資源」を探す「時間」と「空間」のあり方を見直し、対話の創出を今日の合意すら踏み越えて明日からも一緒に考えていく342021 MAY Vol.437
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