キャリアガイダンスVol.437
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 保護者の意思・希望を確認することも重要だ。課題の冊子には、保護者と生徒が進路についてのそれぞれの考えを書き込む欄を設定。そこには「人生の先輩/後輩として」という文言があり、親子が互いに対等に思いを書き綴る仕様になっている。 「本人は望んでいないのに、親は薬学部に進学させたいとか、そういうケースが毎年あるんです。意見の相違が3年次になって発覚すると進路選択は困難を極めますし、進学後のミスマッチにもつながりかねません。本課題では保護者のコメントを必ずもらい、私たちも早期に把握をするようにしています」(鴨志田先生) 2年次後半になると、いよいよ志望校を決めるステージになる。昨年度はコロナ禍の影響でオープンキャンパスに参加できなかった生徒が多かったこともあり、新たに学問別の大学説明会(1・2年生対象)や個別の大学による説明会(3年生対象)を学内で開催した。生徒が直接話を聞く機会を大事にしたいという思いからだ。 「私たち教員は、〝一人ひとりを大切に、生徒の第一志望を応援する〞というスタンスを貫いており、情報提供やアドバイスはしても、成績によって進路を押し付けるようなことはしていません。だからこそ、生徒が自分でやりたいことや行きたい大学を見つけられるよう、できる限りのサポートをしたいと考えています」(伊藤先生)て、進路に関する自分の考えや希望を具体化していく。 この課題は年々ブラッシュアップしており、当初は「自己理解」の項目はなかった。渡邊先生が1年生を担当した際に、新たに追加したという。 「上の学年を担当した先生から、自己理解がしっかりとできていないと地に足の着いた進路選びができないと伺い、追加しました。自己理解や職業、学問分野、大学についての理解がぼんやりしたままだとつい名前で進学先を選んでしまうので、そこはかなり突っ込んで書かせています。高校1年次から受験科目などを考えるのは早いように思われがちですが、受験科目を考慮せずに2年次の科目選択をしてしまうと受験校の選択肢を狭めてしまうことになりかねないので、早い段階から大学の入試情報にもアンテナを張るよう生徒には伝えています。生徒にとっては、この課題が進路を考えるきっかけになっていると自負しています」(渡邊先生)な機会を埋め込むようにしています」(鴨志田先生) こうして蓄積した経験や、その経験がもつ意味を進路に結び付けるステップとして重要なのが、高校1・2年次の夏休みの課題として出される「進路課題/進路考察」だ(ツール1)。1年次には、自分自身の性格や過去の経験を振り返る「自己理解」、興味のある学問・研究やその理由、それを学べる大学や受験情報を書き出す「学問・研究」、日々を振り返り、進路実現に向けて今からできること・やっておくべきことを書き出す「生活・学習面」、さらに、保護者も交えて親子で思いを綴り合う「互いの思いを確認」の4テーマ、2年次にはこれらをより具体化した項目に加え、「生き方の候補」をいくつか挙げる項目やオープンキャンパス用の大学チェックシートなどを追加。これまで積み上げてきた経験を再度振り返りつつ、これからのことを考えて自分の言葉で問いに答えていくというアウトプットを通し 自己理解、社会・職業理解、学問・大学理解と、中学時代からステップを踏んできた生徒たちは、「大学に行く意味や大学で何を学ぶのかということへの意識が概して高い」という。 「みんなが行くからなんとなく自分も大学に行く、偏差値で進学先を決めるという生徒はいませんし、成績がかなり優秀でもなりたい職業があるからと専門学校へ進学した生徒もいます。そういう意味では、自分軸や主体性が養われていると感じます」(伊藤先生) 一方で、課題もある。進路指導部が6年間のストーリーを決めて一貫した進路教育を行っているが、「プログラム単位で見ると学年の間の連続性が希薄なケースもあると感じる」と渡邊先生。「中1から高2までを紐づけ、最終的な進路選択にもつながっていくような流れを作っていきたい」と考えている。 最後に、大学入試が変わりつつあることを受け、伊藤先生はこう期待を語った。 「今後は高校での探究の成果を活用するようなタイプの入試も増えていくと思うので、6年間の取組や活動の成果をもとに自分が興味のある分野に進学する生徒が増えてくることを楽しみにしています」(伊藤先生)周囲に流されない主体的で自分らしい進路を選択・実現聖園ノートの生徒の記入例。多くの生徒がプライベートのスケジュールも記入し、生活面・学習面の自己管理に役立てている。昨年度は3年生を対象にした大学説明会を学内で開催。「マッチングの観点でも高大連携は重要」と伊藤先生は言う。一人ひとりを大切に、最後まで生徒の第一志望を応援する472021 MAY Vol.437

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