キャリアガイダンスVol.437
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 高校生が地域をフィールドに学び、キャリアを切り拓く力をつける実践を紹介してきた本連載は、開始から6年目を迎えた。開始当初と比べ、高校生自らがプレイヤーとして地域を盛り立てる実践が増えている。一方、活動はするが深い学びに繋がらない、という悩みも生まれているようだ。 今号では、地域データの活用を打開策のヒントにすべく、地域経済分析システム「RESAS(リーサス)」(下記コラム)を取り上げる。RESASは地方創生を支援するため、内閣官房と経産省が開設したWEBサービス。人口、産業、観光、福祉など数十種のデータを時間軸、空間軸で抽出できる。 取材をしたのは5年前から授業に取り入れている岡山県立倉敷商業高校の川崎好美先生。内閣府の求めに応じ、RESASを活用する授業案・教材開発にも携わった先生だ。また、地域探究を牽引してきた浦崎太郎教授(大正大学)をはじめとする有識者、教員が登壇した「RESAS de 地域探究シンポジウム」からも、学びを深めるための考え方を紹介したい。 川崎先生が授業にRESASを取り入れ始めたのは、商業科目での探究的な学習において、底の浅さを課題に感じていたときだ。「地域活性化に繫がる、地元産物を使った商品開発をしていましたが〝活動あって学びなし〞になっていなかったか。生産高の推移を見て原材料の背景を知るなどすれば、商品の説得力は増し、生徒の学びも深くなったはず」と振り返る。根拠をもってものを言うことや知識の重要性を再認識し、数字で倉敷を知る教材を作成。商業諸科目に加え、総合的な探究の時間でも地域データを読み解く授業を行っている(左ページコラム)。 「これから必要な、生徒自身が納得解を導き出すような学びの入り口として、操作の簡単なRESASは適しています。データでものを考える癖がつけば、他のデータを自分で探しにいけばいい。英単語がわからなかったら調べますよね? 地域課題に取り組む際にもまずは事実を確認するようになってもらいたいと思っています」。電子辞書のように使いこなしてほしいというのが川崎先生の願いだ。 シンポジウムで「高校生の地域プロジェクトを見ていて気になる点がいくつかあります」と発言したのは浦崎先生。最初のアイデアがすべてになり、プランの妥当性を客観的に評価する視点が欠けていること。プランを立てはするが根拠に基づいてものを言えるように地域と教科、学問との有機的な結合を2021年2月、地域経済分析システム「RESAS(リーサス)」の教育活用に関するシンポジウムが開催されました。政府が地方自治体の政策立案や地域活性化に生かす目的で開発したRESASが今、高校で活用され始めています。今後の地域探究のあり方を、シンポジウムと倉敷商業高校の取組から探ります。データを活用し地域探究に根拠と論理を取材・文/江森真矢子RESASの活用第27回(特別編)行政・民間のビッグデータを無料で誰もが活用できるRESAS RESASは地方創生のデータ利用の入口として、地域経済に関する官民の多様なデータを、地図やグラフでわかりやすく「見える化」しているWEBサービスです。アプリやソフト、ユーザー登録は不要で、学校では地域探究や統計リテラシーを学ぶために使えるのではないでしょうか。 サイトには9つのマップ (人口、地域経済循環、産業構造、企業活動、消費、観光、まちづくり、医療・福祉、地方財政)があります。それぞれに数種類のデータセットを用意しており、マップ、自治体、データの種類を選択すると情報が図表で表われ、CSVでのダウンロードも可能。自治体同士の比較や、時系列比較ができ、将来の人口推計を基に学校や公民館の数を計画したり、空き家マップを見てまちづくりの議論をするといったことが考えられます。 現在は、週次更新データを扱えるV-RESASというシステムも作っており、データは9種類(人の流れ、決済データ、POS、飲食店、宿泊者数、イベントチケット、検索数、求人情報、企業財務)と少ないですが、コロナの影響など直近の動きを見ることができます。 内閣府では実践者とさまざまな教科で使える教材を作りました。教員向けサイトでは実践発表動画も用意していますので、ご活用ください。宇野雄哉氏(内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局 参事官補佐)https://resas.go.jp本サイトのほかに、実践発表動画や教材が掲載されている高校教員向けサイト「RESAS for teachers」「RESAS de 地域探究」もある562021 MAY Vol.437

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