自ら実行しないこと。そして、実行したとしても、検証し修正する場面がない例があると言う。 大学で仮説の設定に苦しむ学生を見てきた浦崎先生は「科学的思考力に乏しいのです。吟味した仮説があり、検証し、プランを修正し、一連の思考過程を発表するのが探究であり、仮説の前提条件を洗い出すためには、関連する定量データにあたるのが基本」と強調する。 生徒の問いと地域の実状を結びつけるにはRESASが使える。過去からの変化や別の地域との比較を通して、生徒が見ているのが単なる「現象」なのか、そこに解決すべき「課題」があるのかが見えてくるのだ。登壇した教員からは「RESASで見つけた課題が、本当に住民にとっての課題なのかは、地域の人と話して更に考えることが必要」(吉澤 陽先生/聖心学園中等教育学校)という声があった。 浦崎先生はまた「学校でやるなら教科・学問との結びつきが不可欠」であり、地域探究を諸科目と有機的に結びつけるべき、と主張。川崎先生と共に教材開発に関わった河合豊明先生(品川女子学院)は「RESASを使って地域を知るのが地理。分析し、正しいかを判断できる力をつけるのが数学、分析で見えた課題を解決するのが商業、プロセスを説明するのが国語。各教科でやるのが難しいことは総合探究で、と授業案を作った」と説明した。 総合的な探究の時間は、教科・科目の力を必要に応じて活用するとされているが、難しさを感じている先生も多いのではないだろうか。地域データという横串を通すことで、生徒が探究課題と各教科の見方・考え方を結びつけやすくなる可能性が見える。 有識者から「データと共に、生の声を聞くことで鮮やかに課題が浮かび上がってくる。人と出会うことも大事」(讃井康智氏/ライフイズテック株式会社)。「知の宝庫である図書館の活用を」(平川理恵氏/広島県教育長)との示唆がある中、文部科学省の合田哲雄氏は「教育には意見の異なる他者と議論する経験を通じて、民主社会の基盤を作るという側面もある。議論に必要なのは論理と事実であり、RESASはその事実の束」と指摘した。 探究学習では、事実にあたることで根拠や仮説が強固になることも揺らぐこともあるだろう。また、新たな視点も生まれうる。データ活用の力をつけることは、〝活動あって学びある〞地域探究への第一歩となりそうだ。議論に必要なのは論理と事実「活動あって学びなし」にしないため商業科目や総合的な探究の時間で活用 前任校では地元の生産物を使ったおにぎりをイベントで販売するなど、積極的に地域と関わる実践をしてきた川崎先生。自身も地域創生に興味があり、5年前に参加した講演会でRESASに出会ったとき「これは授業に使える!」と取り入れ始めた。 川崎先生は地域で販売実習や商品開発をするのが一部の生徒であることや、地域探究に客観性があまりないことに課題を感じてきた。「地域探究と教科、学問の結びつきを有機化する必要があります。“活動あって学びなし”にならないように、地域という題材を科目や単元の狙いに紐付けるようにしたいと思っています。そのときに使えるのが信頼性の高いデータ。数字で考えることは商業の基本です」と言う。 実践例を挙げると、商業科目の「広告と販売促進」で行ったのが、データと実地調査を組み合わせて店舗の計画を立てる授業。生徒たちは消費動向や流入・流出人口のデータを使いながら立地や商品構成、店内レイアウトを考えた。「ビジネス経済」では、地域経済データからビジネス目的で来訪の男性が多いことに着目したビジネスプランが誕生。生徒たちが考えた「朝ご飯に商機あり」は、地方創生☆政策アイデアコンテストに提出し、最優秀賞を獲得している。 校内で理解が広がり、今では総合的な探究の時間のほか各科目でもRESASを使う単元を設けるようになった。基本的な操作を学びながら、自分で選んだデータを読み解き自分なりの見方をまとめ、発表するという内容だ(下図)。川崎好美先生岡山県立倉敷商業高校RESAS活用の入り口として、自分で選んだデータを分析し、自分の見方・考え方をまとめる。この生徒は、地域経済循環マップから品目別農業産出額を取り上げて、人口動態と合わせ分析した。地方創生☆政策アイデアコンテストで発表した「朝ご飯に商機あり」。来訪者データで40代男性が多いことに注目。ビジネス客へのインタビューで日中は時間がないことがわかり、朝食での起業を提案した。572021 MAY Vol.437
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