コロナ禍前よりICT活用を推進してきた佼成学園高校だが、「導入当初は教員に有効活用するスキルがなく、賛否両論あった」と井上先生は振り返る。その後、スタディサプリの映像授業を導入するも、教員からの指示で試聴する程度で、生徒にはなかなか浸透しなかった。「幅広い学力層に合うコンテンツが多数あっても、生徒はそのなかから自分に最適なものを選ぶことができない」という課題を解決したいと考えた井上先生は、生徒が自分で選べる“仕組み”づくりに着手。当時の2年の冬休みの課題用に、英語の到達度別に具体的な課題内容と対応する映像授業を紐づけた「英語 到達度ルーブリック」を作成した(下図)。 当初は映像授業だけだったが、映像よりも参考書や問題集を使った学習の方が向いているという生徒が一定数いたことから、生徒の多様性に合わせて対応する参考書・問題集も追加した。「目的はICTを活用することではなく、生徒が自分に最適な学び方や教材を自ら選び取り、主体的に学んでいくこと」と井上先生は強調する。 現在、井上先生・水みずふか深先生が担当する学年では、長期休暇前に「英語 到達度ルーブリック」を生徒に配布し、学習計画を作成させている。生徒は「いつまでに、何を、どれだけ、どのようにやるか」を具体的に設定し、提出。先生が確認してコメントを戻し、それを受けて生徒は再調整する。「最初は課題が漠然としていたり分量やレベルが適切ではなかったりする生徒が多いが、次第に課題設定も計画も精度が上がってくる」と水深先生。休暇明けには振り返りの機会を設け、次の学習計画のブラッシュアップにつなげている。 英語から始まったルーブリックを使った個別最適・自主自立の学びの取組は、今では数学や国語にも広がっている。「今後は他学年でもこの取組を参考にしてくれる先生が出てくると嬉しい」と2人は締めくくった。 海部高校が遠隔授業に取り組み始めたのは2015年。県内でも特に少子高齢化が進む地域にあり、将来的に教員不足により開講できない科目が出る恐れがあったことから、教育委員会とともに対策に着手した。同年に国の実証研究事業※を受託。外部と連携した遠隔授業の仕組みを構築していった。柱となるのが、他校との遠隔授業と大学教授による特別講座だ。 県立徳島中央高校の教員による通年の遠隔授業では、これまでに「数学B」を開講。海部高校の生徒は遠隔授業専用の教室にて、一人一台のダブレット端末を使って受講する。授業支援アプリで画面共有することで、「教員が教室で机間巡視を行うように生徒の学習状況を確認できる」(井いりもと利元教頭)という。教室には授業補助者として海部高校の教員が付き、評価にも携わる。「遠隔では生徒の意欲や態度がみえにくいので、その評価を授業補助者が補う」(藤田氏)といい、双方の教員は授業前後に密にコミュニケーションをとっている。「スムーズに遠隔授業を行うコツは、使う機器も授業の進め方もできるだけシンプルにすること。試行錯誤するなかで、余計なものは省いてきた」と井利元教頭は述べる。 また、海部高校の周辺には高等教育機関がなく、研究者による出張講義が容易でないという課題もあった。そこで始めたのが、徳島文理大学の古田 昇教授による地理の特別講座だ。昨年度は「事前指導(遠隔)・フィールドワーク(実地)・事後指導(遠隔)」の3回構成で実施。「事後学習があったことでやりっぱなしにならず、生徒の理解がより深まったようだ」と井利元教頭。遠隔と実地を組み合わせた指導の成果も出ている。 「遠隔授業が浸透すれば、田舎だから不利という制約を取っ払い、学校の魅力や特色にもつなげていけると期待している」と中﨑校長。教育委員会は今後、遠隔授業の実証で得られたICT活用のノウハウを県全体に広げていきたい考えだ。地理の特別講座の事後指導の様子。教室にはモニターが2台あり、1台には授業をする教員が、もう1台には教材や問題が映し出される。※文部科学省「新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業(遠隔教育システムの効果的な活用に関する実証)」左から、3年学年主任・英語科教諭の井上 哲先生、英語科主任の水深 壮先生。左から、海部高校研修情報課長の福田泰斗先生、進路指導主事・進学課長の大西昌文先生、中﨑 誠校長、井利元裕哉教頭、徳島県教育委員会教育創生課指導主事(高校魅力化担当)の藤田康平氏。取材・文/笹原風花ICTは手段の一つ。大事なのは最適な学びを自ら選び取れるようになること高校・大学とつないだ遠隔授業で、生徒の学びの機会を確保・発展させる英語の5つの分野別に1~6までの到達度を設定し、各レベルの生徒が取り組むべき「課題内容」を具体的に記載。さらに、課題内容に対応した映像授業や参考書・問題集に紐づけている。※ダウンロードサイト:リクルート進学総研>> 発行メディアのご紹介>> キャリアガイダンス(Vol.438)ICT活用佼成学園中学校・高校(東京・私立)海部高校(徳島・県立)生徒自身が実現する個別最適な学び学外と協働し、立地によらない魅力ある学びを実現122021 JUL. Vol.438
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