キャリアガイダンスVol.438
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 市立札幌藻岩高校は、都市部の進学校ながら、地域連携の探究をカリキュラムの中核に据え、学校全体で取り組んでいる。 1年次は「実体験を通して社会に目を向ける」として、多様な分野の人と出会い、見る・聴く・質問することを体験。 2年次は「社会の一員として地域の課題解決に向けたアイデアを共創する」として、同校のある南区でフィールドワークを行い、“地域を笑顔に、持続可能にする”ための課題発見や解決策の提案・実行に挑む。 3年次は「持続可能な社会と、それを担う自己の未来を描き、行動する」として、社会や自分の今後を想像しながらフィールドワークや進路実現に向けた取組を。 教員はその探究活動に寄り添うなかで、各生徒の志向を理解し、知りたいことや学びたいことにマッチする大学や民間団体、行政の部署なども一緒に探し、いわば「活動を通した進路相談」にものっていく。 2021年度からは、4月に各年次が「学び」と向き合う講座もスタート。「探究や各教科を学ぶ意義は何か」をみんなで考える取組で、主体的に学ぶことや、知識・技能を身につけることに対して、生徒の意欲を一層喚起することを目指している。 こうしたカリキュラムの原点となったのは、2018年度より2年次の総合的な学習の時間で、地域連携の活動を始めたことだ。同校の千葉先生が、同僚と一緒に地域に飛び込み、自ら連携先を開拓した。 「学校で言われたことだけを学ぶのではなく、『生徒が外にも出て、自分で歩むなかで学ぶ』ようにしたかったのです」 その学年団の取組に、学校改革のプロジェクトチームにいた長井先生が着目、学校全体に広げようと提案、周囲に働きかけた。「探究中心のカリキュラムという“型”を作ろうとしたわけではないんです。未来が見えない時代には『リアルな体験から実感のこもった問いを見出し、自ら学ぶことが大事だ』と思い、そうした場を追い求めた結果、探究を軸とした学びになりました」 重視するのは偶発的・自発的な学びだ。「生徒が外に出て、普段は接しないような人や出来事にふれるなかで『今まで思いもしなかった生き方や社会の課題』を知り、そこからやりたいことを見出してほしい。その思いを進路にもつなげていけるよう、教員も支援したいのです。生徒がやることを決めて活動するので、こちらの計画通りにいかず大変な面もありますが(笑)、『何が起きるかわからない状況を僕らも一緒に考えて楽しもう』と話しています」(千葉先生) 「4月の学びの講座でも、計画的なことも偶発的なこともすべて自分の学びにしていこうと投げかけています。探究と各教科の関連も、教員主導のプログラムでつなげるというより、生徒が自ら結びつけていけるよう、その思考を促すために何ができるか話し合っているところです」(長井先生) その促しの一つが、教科の授業でも、外部との関わりや、社会や地域の旬の話題を盛り込んでいくことだ。4月の講座を経ることで、生徒たちはそうした教科書外の学びにも前向きに取り組んでいるという。 生徒の変容も感じている。地域探究開始時は「それよりも勉強を」との声もあったが、南区を自分たちで見聞きし、地域を笑顔にしようと食べ歩き文化づくりなどを構想、実行するなかで熱が高まった。取組から自分がこの先やりたいことを見出し、活動実績を進学に結びつける生徒も出てきた。 その先輩を見てきた次の代からは一層変化があった。将来目指したいことのある生徒が森林資源の活用プランを自ら提案、鉄道好きの生徒も線路跡地の再利用を発案するなど、促さずとも動き出した。「言われたことを素直にやる」傾向のあった生徒が、自分の進路や強みを見すえて「やりたいことを意思表示する」ようになったのだ。 長井先生はこの地域探究をさらに広げ、「子どもたちが札幌というまちで24時間自由に学べるようにしたい」と考えている。同校の取組以外に、市立高校連携で各校の生徒が横断で参加できるプログラム―例えば地域の中学生や大学生、大人と共にまちづくりを考えて実際に動く取組なども始まった。千葉先生は「その探究によって、生徒が変わるだけでなく、地域も本当に変わっていくようにしたい」と思い描く。だからこそ、地域の人や団体、行政とも、さらなる連携のための協議を重ねている。札幌藻岩高校(北海道・市立)計画的な学びと偶発的な学びの両面から生徒が成長できるように探究を通して学習意欲を高め自分らしい進路も見出す計画に乗せるのではなく自走する生徒と一緒に考える左から、総合的な探究の時間担当の千葉建二先生、1年次主任(前 総合的な探究の時間担当)の長井 翔先生。C強制的に受けた体験から、自分なりの気づきを得る学び【例】クラス替え、新型コロナD自分から突っ込んでいった体験から、自分なりの気づきを得る学び【例】旅・人との出会いA何かを得るためにいまやらなくてはいけない学び【例】受験、テスト勉強、宿題B何かを得るために、やらなくてもいいけど、好きでやる学び【例】英検、部活動、探究活動取材・文/松井大助4月の講座で示す「学びの4象限」。長井先生と外部講師の嶋本勇介さんの合作。嶋本さんは北海道を拠点に、「あしたの寺子屋」と名づけた、繋がる・学べる・会える場の提供を全国横断で展開している。強制的偶発的計画的自発的探究192021 JUL. Vol.438

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