キャリアガイダンスVol.438
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 岩槻高校では、3年間を通して生徒が自己理解を深めて意志ある進路選択ができるよう、今年度よりファイル形式の「キャリア・パスポート」の活用を進めている。軸となるのが、生徒と担任の二者面談時に使用する「面談シート」(下図)だ。年度初めに行われる面談に先立ち生徒自身が記入するもので、すべての生徒・担任が使用している。面談シートならびに二者面談導入の背景には、大きく3つの課題があった。 「埼玉県では小中高を通したキャリア・パスポート『わたしの志ノート』の活用が始まっていますが、中学校での実践状況にはまだバラつきがあり、生徒の情報の引き継ぎや入学時点での足並みに課題がありました。また、本校はいわゆる進路多様校ですが、進路を考える段階で、志望動機や目指したい方向性についてしっかりと語れない生徒が少なくないという課題もありました。主体的なキャリア形成のためには、早い段階から自己理解を深めることが重要です。そのためには、学び・活動の蓄積や自分の意志を書くことを通して可視化する必要があると考えました。さらに、進路指導が進路指導部頼みになりがちななか、軸足をクラス担任に置き換えたいという教員間の課題もありました。これらのことから、入学直後を含む年度初めに二者面談を行うことを決定。担任のついて話すきっかけになったようだなと、本当に嬉しく思いました」(松田先生) 今年度から本格始動したキャリア・パスポートの取組に、大勝校長は「大いに期待している」と言う。 「本校では学校推薦型選抜で進学する生徒が多いのですが、最初からその枠で考えると選択肢が狭くなってしまいます。自分が本当に行きたい大学や専門学校、学びたい学問領域や職業について考える機会が早くからあれば、総合型選抜や一般選抜にも幅を広げることができる。特に総合型選抜は早期の準備と意欲・目的意識が決め手になるので、キャリア・パスポートの取組が生徒の意識を高め、可能性を広げることに期待しています。そして、岩槻高校の文化としてこれをしっかりと定着させ、今年度策定予定のスクール・ポリシーにもつなげたいと考えています」(大勝校長) 面談シートは完成形ではなく、今後さらに進化させていきたいという松田先生。最後はこう締めくくった。 「変化が激しく先行きが不透明ななか、生徒は進路選択において難しい状況に置かれています。だからこそ、自分がどういう人間で何がやりたいのかについて考えを深め、自分の手で明るい未来を掴んでほしい。キャリア・パスポートは、そのための有効なツールだと確信しています」(松田先生)岩槻高校(埼玉・県立)書くことで自分と向き合う機会を創出。面談と組み合わせ、生徒の可能性を広げる3年生用の面談シート。前学年の振り返りの項目は2年生用と統一し、比較することで生徒が自身の変化や成長を見て取れるようにしている。「未来へのパスポートとなるように」との願いを込めて、同校の前・美術教諭がデザインしたキャリア・パスポートファイル。学年ごとに色が異なり、3年間を通して使用する。生徒の自己理解と教員の生徒理解を図る「面談シート」左から、進路指導主事の松田広大先生、大勝浩司校長。負担や指導のバラつきを軽減するためにも共通のフォーマットや資料があるといいだろうと、教務部や学年担当と協議して面談シートの導入に至りました」(大勝校長) 面談シートは、これまでの活動・学びや自分自身についての振り返り、どんな年にするかという決意表明・目標、現時点での進路志望、進路実現のために必要なこと・課題、保護者からのコメントなどを軸に、各学年の特性に合わせた項目からなる。入学直後の1年生には高校生活に際しての心配ごとなど、中だるみしやすい2年生には日々の生活リズムなど、最終的な進路決定をする3年生には進路決定において心配なこと・先生に知っておいてほしいことなど、生徒が自分自身への理解を深めるため、そして、教員が生徒を知るために重要な要素が盛り込まれている。記入した面談シートは、3年間を通してオリジナルの「キャリア・パスポートファイル」(写真)にファイリング。その他の進路関係の資料とともに、学び・活動履歴の振り返りや面談のほか、進学先や就職先に提出する書類作成の際などにも活用していく予定だ。 「生徒がどこまで真剣に取り組んでくれるのか、実際に面談に役立つのか、不安もあった」と言う松田先生だが、4~5月にかけて行われた二者面談の後には、教員から感謝の声が寄せられた。 「年度が切り替わる多忙な時期に面談用の資料などを準備するのは大きな負担だったので、面談シートができてとてもありがたい、面談時に取りこぼしがちだった生徒の情報をしっかりと把握できるようになった…といった声をたくさんもらいました。何よりも、生徒が予想以上にしっかりと書いてくれていて。何度も書き直した形跡や保護者の方からのコメントを見ると、いろいろと考えながら一生懸命に取り組んでくれたんだな、家庭で進路に※ダウンロードサイト:リクルート進学総研>> 発行メディアのご紹介>> キャリアガイダンス(Vol.438)取材・文/笹原風花先行き不透明な時代だからこそ意志ある進路選択を支えたいキャリア・パスポート222021 JUL. Vol.438

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