諫早高校(長崎・県立)青翔開智中学校・高校(鳥取・私立) 成績に基づく受験校決定のための進路検討会を行う学校は多いが、諫早高校はそれに加え3年前より、生徒のキャリア支援のため、偏差値や成績の話を一切しない「キャリア検討会」を実施している。 同校は国立大学進学実績を誇る地域トップクラスの進学校だ。「生徒はひたすら勉強にエネルギーを注ぎ、自分が何者かを考える暇もなかった」と前進路指導主事の後うしろだ田先生。もっと生徒がもつ多様な力を伸ばそうと、課外学習や課題を減らして生徒に時間を預けるとともに、外部講演会の企画・運営を任せるなど生徒の主体的な活動の場を創出。そこから火が点き、自ら学校行事の企画や海外ボランティアなどに挑戦する生徒が出るようになった。そんななか、「生徒がどんな活動をして、どう成長しているか、多くの先生方に知ってほしい。模試結果だけでなく志望理由を語る面談につなげてほしい」(後田先生)と始めたのがキャリア検討会だ。 同会は学年団と進路指導部が参加し、1学年12月、2学年10月、3学年5月に実施。志望大学や活動内容などが記入された生徒個人票から、特に多様な活動で伸びそうな生徒を選んで取り上げ、学校ができる支援をみんなで考えていく。例えば1学年であれは、関心の方向性が近い生徒同士や外部イベントを紹介して活動を広げる「人つなぎ・場つなぎ」。2学年ではこれから参加できるコンテストなどへの挑戦促進。今年度から導入した3学年では、多様な入試方法を見据えた準備につなげる。 こうして背中を押されて活発化する生徒たちを核に、さまざまな活動をしながらキャリア形成していくことの価値が校内に浸透してきた。「先生方は日常的に『こんな活動している子がいるよ』と話すなど、生徒を多面的に見ている」と園田先生。今春は初めて海外大学進学者も出るなど、後田先生が言う「とがった進学先」を狙う生徒たちが増加。出口が変わると入口も変わり、「この学校でこんなことがやりたい」と多彩な生徒が入学してくる。「学習に力を注ぐ生徒もいれば、校内外の活動を重視する生徒もいて、お互いにリスペクトし合い、教員はそのどちらも支援する。多様な個性を認め合う文化ができてきた」と後田先生。そんな進学校の変革に、キャリア検討会の果たした役割は大きいという。 青翔開智高校は、卒業生の大学等合格実績を、各生徒が在学中に取り組んだ探究テーマとセットで発表している(図1)。2014年の創立以来、建学の精神にも掲げる「探究」を軸に、新しい学校づくりに取り組んできた同校。探究と進路を一体的に設計する教育方針が、こうした発表方法にも一気通貫している。 探究と進路のいずれでも、目指すのは、生徒一人ひとりの中にある「興味」「能力」「価値観」、そして「社会」の4点が重なり合う、自分の核を見つけることだ(図2)。これを基に6年間の探究プログラムを構築。探究スキルの習得とともに、企業や世界のさまざまな課題解決などに取り組み、集大成として高2で自分の核に基づく個人テーマを設定し、探究を深めて論文にまとめている。 個人探究の支援には教員全員であたる。最初は多くの教員との対話を通じて多様な考え方に触れさせ、テーマが定まってきたところで担当教員を決め探究を個別に支援。そしてその教員が、そのまま進路決定プロセスにも伴走するのだという。生徒の活動状況はデータで蓄積し、担任を含む教員間で共有。職員室では教員同士が絶えず生徒を話題に話し合う。「共有システムや会議以上に、日常的な話の積み重ねが生徒支援の力になる」と森川先生。 探究でホスピスのあり方に取り組んだ生徒は医学部へ、食品のアレルギー表示に取り組んだ生徒は農業系学部へ進学するなど、多くの卒業生が探究のテーマや経験を軸に進路を決定。 「生徒が自分で考え、自分で学力を上げ、自分で進路実現する。そのために我々はどのような支援をすれば良いかを常に考え、自己調整学習など新しい取組も導入していきたい」(織おたざわ田澤校長)成績で決める進路指導を脱し生徒を多面的に伸ばす学校へ探究と進路を一体的に設計し生徒の進路実現に伴走図2 偏差値だけではない多様な価値観をゲームを通じて学ぶなどし、4つの円が重なる部分を探究と進路につなげていく。図1 卒業生の合格一覧。左2項目が進学した学校と学部学科名、右が探究論文のテーマ。左から、教務主任・後田康蔵先生、進路指導主事・園田浩二先生。左から、織田澤博樹校長、進路支援主任・森川真吾先生。取材・文/藤崎雅子“偏差値の話NG”のキャリア検討会を軸に学校の文化を変える進学先と「探究のテーマ」をセットで発表進路指導・キャリア教育262021 JUL. Vol.438
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