キャリアガイダンスVol.438
39/66

392021 JUL. Vol.438誌上進路指導ケーススタディ 相談がうまく 進まないときどうするか生徒との進路相談で、特に間違ったことは伝えていないと思うものの、何かしっくりこない、生徒に想いが届いていない気がするなど、「何となくうまく進まなかった」感じを抱くことがあるのではないでしょうか。そんなとき、生徒とのやりとりを振り返るためにも役立つ理論として、國分康孝氏による「コーヒーカップ方式」を取り上げました。取材・文/清水由佳 イラスト/おおさわゆう※『カウンセリングの原理』(誠信書房)p127に編集部が加筆作成こんなケース1説教モードのまま終わった声かけ2話に深まりが感じられなかった面接3解決策に生徒が乗ってこない相談第20回かりまざわ・はやと●1986年岩手大学工学部卒業後、岩手県の公立高校教諭に。早稲田大学大学院教育学研究科後期博士課程単位修得退学。教育学、教育カウンセリング心理学を専門とする。2015年4月より現職。会津大学 文化研究センター教授 苅間澤勇人先生 【監修&アドバイス】さに、「リレーションづくり」から徐々に「問題の把握」に向かって話が深まり、その深まりから自ずと流れ出てくる「処置・問題の解決方法」という面接の構造を示していると言えます。さらに國分氏は、その著書『カウンセリングの原理』の中で、育児相談であろうと進路相談であろうと、他者への援助を意図している面接はすべてこの3段階を有しており、面接の仕方が上手になりたければ、廊下の立ち話であっても、生徒が立ち去ったあとにこの3点から自問自答することが重要だと説きます(図参照)。 そして、コーヒーカップ方式の段階に応じた技法や方策も、國分氏は明確にしました。 まず、リレーションをつくり、問題の本質をつかむためには、「受容」「繰り返し(言い換え)」「明確化(感情の意識化、意味の意識化)」「支持」「質問(開かれた質問・閉じられた質問)」といった5つの技法を身につける必要があると説きます。これらはロジャーズの来談者中心療法が提唱した技法で、カウンセリングを学ぶ際に必ずと言っていいほど触れる「傾聴」につながります。生徒を尊重し、しっかり耳を傾け、何が課題になっているのか、どんなことを気にかけているのか、問題の本質を先生が勝手に判断するのではなく、言語的コミュニケーションを通して洞察します。同時に、視線や表情、ジェスチ 日本の心理学者で、日本教育カウンセリング学会理事長などを歴任された國分康孝氏は、カウンセリングのプロセスを、①リレーションづくり(面接初期)、②問題の把握(面接中期)、③処置・問題の解決方法(面接後期)の3段階に分け、その流れがコーヒーカップの形に似ているところから、「コーヒーカップ方式」と命名しました。まャー、声の質や量、席の取り方、言葉遣い、服装・身だしなみなどの非言語から得られる情報も大切にします。 そして、明確になった問題を解決したり処置するために、大きく6つの方法を示しています。1つ目は、他の機関や援助者に依頼する「リファー」。学校内で他の先生の協力を仰ぐことなども、考慮してみたいところです。2つ目が、環境に働きかけることによって問題解決を行う「ケースワーク」。3つ目は、スキルの指導を行う「スーパービジョン」。4つ目は、情報提供やアドバイスを行う「コンサルテーション」。5つ目は組織的な課題がある場合に組織の長などへの進言を行う「具申」。6つ目は、パーソナリティに関わるような「狭義のカウンセリング」です。 國分氏は、カウンセリングを「言語的、非言語的コミュニケーションを通して、行動変容を試みる人間関係」と定義しました。そのような関わりを面接の流れの中で大事にできると、教師も生徒も、互いに納得感の高い相談ができるのではないでしょうか。図 コーヒーカップ方式の三本柱と振り返りのチェックポイント進路指導に役立つ理論●コーヒーカップ方式理論を活かすあの生徒の取り組むべき問題は何であるかを理解したか。当人もそのつもりでいたか。私の処置は適切であったか。さっきの生徒は私に胸襟を開けたか。私はあの生徒に好意をもったか。リレーションをつくる(面接初期)処置・問題の解決方法(面接後期)問題をつかむ(面接中期)

元のページ  ../index.html#39

このブックを見る