1872年に数学者の上野 清が創設した上野塾が前身。1954年に東京高校に改称。1971年に男子校から共学となる。大学進学率72.6%(2021年3月末現在)、部活動加入率88.3%(2021年5月末現在)を誇る文武両道の進学校。いちばんの魅力は、常に70%超という皆勤・精勤率に裏付けられるとおり、生徒が明るく元気に学校生活を楽しんでいること。東京高校(東京・私立)まとめ/石井栄子 撮影/坂本ひろし 明治5年にたった一人の塾生からスタートした上野塾が本校の前身です。創立者の上野 清は、明治初期の三大数学者の一人と呼ばれており、数学教育で大きな功績を残しました。上野 清の掲げた建学の精神、「一校一家の塾(学校)教育」「品性陶冶の人格教育」「個性尊重の自主教育」は、来年150周年を迎える今でも、大切に守られています。本校の卒業生には、古くは『真実一路』などの優れた著作で知られる作家の山本有三氏、最近では落語家の立川談志氏、陸上選手のケンブリッジ飛鳥氏など、さまざまな分野で活躍する方々を輩出しています。 「個性尊重」は本校で大切にしている教育目標のひとつですが、「個性」とは、必ずしも「人と違うことをすること」ではありません。私はむしろ「人と同じことをして秀でることこそ重要」と考えています。つまりそれは、「誰でもできることに対して、どんな工夫や努力をするのか」。また、そのために、「どれだけ自分の頭で考えられるか」によるのです。 近年の学校は、生徒に知識やスキルを身につけさせることは上達しましたが、生徒が自ら考える力を育てることは下手になったように思います。それは、「疑問をもちなさい、自分の頭で考えなさい」と言わないばかりか、教員が先回りして答えを用意してきたからにほかなりません。これからは、自分の頭で考えられない人は、AIに使われる時代になります。高校の3年間で、生徒たちの「自ら考え行動できる力」をいかに育てるかが、本校の重要な使命と考えています。 世の中がどう変化しようとも理想の教育を目指し、貫くことが私学のあるべき姿です。そして、生徒一人ひとりの個性や適性を見抜き、それをさらに伸ばすこと、生徒の個性や適性に合った進路を示していくことが教員の仕事です。生徒ごとに正解は異なり、マニュアル化できるものではありません。「何が好きか」「何をしているときが楽しいか」など、生徒と丁寧に対話を重ね、思いを引き出していくことが必要です。当然、教員自身にも自分の頭で考える力が問われるでしょう。 基本としての教育方針を守りながら、時代に即した教育改革は常に行っています。通信衛星授業の導入や、2年生からの文系Ⅰ~Ⅲ類、理系Ⅰ・Ⅱ類、合わせて5系統のカリキュラム編成もそのひとつです。大学卒業後の生き方も視野に入れて、生徒が希望の進路選択をできるよう全力でサポートしています。 来年度の探究学習本格導入に向けても、教員主導で検討が進んでいます。上意下達のマネジメントスタイルは簡単ですが、私はできるだけ現場の判断を尊重したいと考えています。上からの指示待ちでは緊急事態に陥った場合、思考停止するしかなくなります。 現場の教員が力を発揮しやすい環境をつくること、そして何かあったときには責任を取る。これがトップの役割だと考えています。すずき・とおる/1959年東京都生まれ。國學院大學文学部史学科卒業。高校時代から歴史や考古学に熱中し、歴史好きが高じて地歴公民(日本史)の教員となる。初任校は東京高校。当時は男子校から共学に変わって間もなく、バンカラな雰囲気に最初は戸惑ったが、真剣に教育に取り組む同僚や先輩から刺激を受け、丁寧に育てていただいたと感謝している。勤続39年目の今年4月に校長に就任したばかり。来年の150周年に向けてさまざまな行事を計画しながらも次の10年、20年、さらには200周年へと受け継がれる学校のあり方を模索している。知識やスキルより大事なのは疑問をもち、自分の頭で考えること上意下達ではなく、現場の教員が自分で考え判断できる組織運営を472021 JUL. Vol.438
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